inspectionFY2009
32/137
29 パラダイム研究会の活動を通じ「生産から生存へ」「圏間のつながり」「生のつながり」「親密圏と公共圏」等のキーワードが生まれた。また生存基盤指数の策定を念頭に置いて「国際規範の指標化」が議論されたことに加え、東南アジアや南アジアといった諸地域の生存基盤をマルチディシプリナリーな視点から長期の発展経路として理解しようとする議論も行われた。パラダイム研究会の活動は4つのイニシアティブの活動に/からスピンオフ/インされ、グローバルCOEとしてパラダイム形成に向けた議論の深化に貢献している。 第3回国際シンポジウム パラダイム研究会を通じた議論を踏まえ、第3回国際シンポジウム「Changing Nature of Nature - New Perspectives from Transdisciplinary Field Science -」が、2009年12月14日~17日に京都大学稲盛財団記念館で開催された。滋賀県の里山地域におけるフィールドトリップによって始まった当シンポジウムは、4つのセッション(各セッション4本の報告、合計16本の研究報告)と総括セッションから構成された。 現代社会における「自然」/「非自然」の境界生成と可塑性に注目し、その歴史・地域限定的な背景要因とこれに起因する動態理解の方法論を、パッチ、ランドスケープ、コミュニティ、領域国家など様々な分析スケールから検討した。論文発表者は、生態学、人文地理学、自然地理学、文化人類学、歴史学、国際関係論、水文学、植物学、地球物理学、社会学、地域研究などの専門家からなり、自然科学と人文・社会科学を架橋し、「攪乱」、「コネクション」、「スケール」などを鍵概念としながら、社会システムと自然システムの接合動態の検討の方法論を模索した。 各セッションでは、生命圏(biosphere)における商品連鎖、水害に代表される地球圏(geosphere)による在地コミュニティに対する攪乱、政治経済的な力学要因としての水資源、ポスト産業造林社会の里山観、植物分類体系の地域比較、人為攪乱下での生物多様性、地震や干ばつなど大規模自然災害のもとでの在地社会の歴史動態、さらには自然と社会の関係理解のための時間的/空間的分析単位に関する方法論的議論など分野横断的な議論が交わされた。 本プログラムのメインになる国際シンポジウムとしては、これが3回目になるが、いつも総括セッションで問題になるのが、なぜパラダイムを形成しなければならないか、という問いである。過去2回のシンポジウムでは、パラダイムが新しい視点からの研究を誘発する可能性に力点を置いてわれわれの営為を正当化してきたが、今回はさらに踏み込んで、ある大きな目標の設定(たとえば地球温暖化の可視化)が、さまざまな分野(たとえば歴史学や経済学)の対象領域の設定に影響し、目的意識を共有することによって古い分野が新しいテーマを獲得するといったレベルの貢献にも注目する必要があることが指摘された。
元のページ