inspectionFY2009
6/137

3 る。具体的には、大気の動きと降雨、植生の関係を学際的に研究することによって「熱帯生存圏」の諸相を理論的に解明するとともに、東南アジアの大規模植林をとりあげて、そこにおける生態系と生物多様性の維持、地域社会との関係、バイオエネルギーの開発などのテーマを総合的、体系的に解明しようとした。 第三に、人間開発指数に代わる「生存基盤指数」の開発を試みた。従来の指数が一人当たりGDP、教育、健康など人間圏にかかわる指標のみを対象としていたのに対し、われわれは地球圏(災害への対応力、エネルギーの確保など)、生命圏(生物多様性、バイオキャパシティーなど)にかかわる指標を人間圏と同等に重要なものとして扱うことによって、地域社会の生存基盤の実態に迫ろうとした。 最後に、本年度から、4つのイニシアティブとは別に「図書・資料ユニット」を立ち上げ、持続型生存基盤研究のためのハンドブックを作る基礎作業を始めた。とりあえず、われわれの会話に日常的に登場する文理融合型のコンセプトについて、専門分野に近いメンバーに割り当てて用語解説を書いてもらい、それらを専門分野を超えて多面的に理解できるものにするために、10回ほどの研究会を開催した。 成果の発信 持続的生存基盤パラダイム形成の現時点での成果を、「生産から生存へ」、「地表から生存圏へ」、そして「温帯から熱帯へ」の3つの視点を柱としてとりまとめた単行本『地球圏・生命圏・人間圏‐持続的な生存基盤を求めて』(京都大学学術出版会)を刊行した。本書は、アジア・アフリカ熱帯地域の社会と生態に関する文理融合的な知見に基づき、温帯の経験を中心に構築された既存の学的枠組みを批判しつつ、21世紀における持続的な生存基盤を学際的に構築する試みである。また平成21年度においては、本プログラムメンバーに加えて、国内外から関連研究者を招へいして、パラダイム研究会を11回、国際シンポジウム・セミナーを13回、その他、イニシアティブ研究会・ワークショップを多数主催・共催した。また、その成果を速報として公開するワーキングペーパー14冊を刊行した。国際会議での招待講演も、British Academy Conference on ‘Writing the History of the Global: Challenges for the 21st Century’ における“The European Miracle in Modern Global History: A View from East Asia and Beyond”(杉原薫)など、積極的に実施した。こうした成果に加えて、『東南アジア研究』、『アジア・アフリカ地域研究』、Kyoto Review of Southeast Asia, African Study Monographsなどにおいても本プログラムに関係する論考が現れつつある。 教育・人材養成 本拠点の第二の目的は、パラダイム形成の現場に触れた、本格的な文理融合型研究を担う若手研究者を養成することである。本プログラムの特徴は、21世紀COEプログラム「世界を先導する総合的地域研究拠点の形成」によってアジア・アフリカ地域に設置した14ヶ所のフィールド・ステーションを継承・発展させ、フィールドワークから国際ワークショップにいたるまで、研究パラダイム形成の現場に博士後期課程の大学院生・ポスドク研究員・助教からなる若手研究者を主体的に参加させることによって、人材育成と研究を融合させるところにある。そのために、「生存基盤地域研究人

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です