jikotenken_2012naito
66/180

- 63 - 10. おわりに-今後の展望- アジア・アフリカの地域研究に携わる研究者と、先端技術の開発に関わる科学者との学問的対話を促進するために、「持続型生存基盤パラダイム」という新しい考え方を提案し、地球温暖化のアジア・アフリカの地域社会への影響といった緊急の課題に答えるべく、ローカルな、あるいはリージョナルな持続的発展径路を追究することを目標として発足した本プログラムの平成22年度の活動を点検し、若干の評価と今後の展望について記す。 第一は研究分野横断型の研究推進についてである。平成 22 年度にはパラダイム研究会を10回、国際シンポジウム・セミナーを13回、生存基盤指数に関する議論を集中的に行うために今年度より新たに設置した第2パラダイム研究会を5回、その他、イニシアティブ研究会・ワークショップを多数主催・共催し、研究成果の国際的な発信を積極的に推進した。また、その成果を速報として公開するワーキングペーパー21冊を刊行した。 平成22年度に開催された国際シンポジウムは、“Scientific Exploration and Sustainable management of Tropical Peatland Ecosystems”(2010年10月20日、リアウ大学との共催)、“Towards the development of Sustainable Humanosphere Index”(2010年12月9-10日、GIS-IDEAS学会との共催)、“Understanding Global India: The South Asian Path of Development and its Possibilities”(2011年1月29-30日、NIHUプログラム「現代インド研究」との共催)等であり、いずれも本プログラムの目指すパラダイム形成に対して、参加者から積極的な評価を得ることができた。 同時に、4つの研究イニシアティブとそれらを総括するパラダイム研究会の活動も活発に展開することができた。これらを通じて見出された知見は次の二点にまとめられる。その第一は、人間と(自然・生態)環境の関係を、これまでのように人間(開発)の側からだけ、あるいは自然環境の維持の立場だけから考えるのではなく、両者の相互関係を考慮した上で、人類の「生存基盤」をどのように持続させていくかという視点が重要だということである。われわれは、そうした視点を確立するために、グローバル・ヒストリーを書き直したり、人間開発指数に代わる「生存基盤指数」の開発を前進させたり、また生命を連鎖体として見る在来の「生存基盤の思想」を読み解いたりした。第二は、人間と環境との関係を二項対立的に捉えるのではなく、「地球圏」、「生命圏」、「人間圏」という、長い歴史と固有の運動の論理をもった三つの圏が交錯して成立する「生存圏」として捉えることによって、これまで注目されていなかったさまざまな領域の問題を可視化し、総合化する試みである。 持続的生存基盤パラダイム形成の中間的成果を、「生産から生存へ」、「地表から生存圏へ」、そして「温帯から熱帯へ」の3つの視点を柱にとりまとめ、単行本『地球圏・生命圏・人間圏―持続的な生存基盤を求めて』(京都大学学術出版会)を2010年3月に刊行した。22年度には書評(『アジア・アフリカ地域研究』など)や合評会をつうじて多くの建設的な反応を得ると共に、本単行本の英訳を終えた。現在、出版社と翻訳本刊行の交渉中である。その他の成果出版物として既存のKyoto Working Paper Series on Area Studiesに、G-COE Seriesを設け、年度内に21号を出版した。既刊のものと合わせて出版号数は99号となった。

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です