日 時:2008年5月9日(金)10:30~12:00
場 所:京都大学東南アジア研究所東棟2階会議室(E207)
発表者:
高橋洋(海洋研究開発機構 地球環境フロンティア研究センター)
発表タイトル:
「東南アジアモンスーン域の降水季節進行:平均場を形成するマルチタイムス ケール現象」
発表の概要:
東南アジアモンスーン域は、明瞭な季節変化をもち、雨季と乾季に分けられる。
雨季には、湿った南西風が卓越し、多量の雨がもたらされる。雨季の中でも、毎日、だらだらと雨が降っているというわけではなく、ある一定のリズムを持って雨が降っている。季節という時間スケールよりも短い幾つかの卓越した周期の変動があり、それらが平均的な季節進行及び降水分布に重要な役割を果たしている可能性がある。
本発表では、平均的な季節進行及び降水分布について、それらを構成する現象に着目し、平均場がどのように形成されているのかを議論したい。
参考文献:
安成 哲三(1990): 「熱帯とモンスーン(第二章)」 『東南アジアの自然(講座東南アジア学第二巻)』
高谷 好一編. 弘文堂, 51-74. 【趣旨】
熱帯域の大規模な降水の季節変化は、熱帯収束帯(ITCZ)と呼ばれる、降水域の南北方向への移動で説明される。ITCZは、太陽放射の南北の季節変化に伴って、大きく見れば、6~8月には北半球に、12~2月には南半球に降水帯が位置する。しかし、衛星画像で世界の降水の季節変化を見ると、帯とよべるような収束帯は見当たらず、ランダムに雲活動が起きているように見える。平均場では、南北の風が収束しているように見えるが、実際には熱帯擾乱活動(台風など)によって小さな(数キロから数千キロ)の降雨活動によって構成される。興味深いことは、ある地点で観測すれば、数日から数週間程度の時間スケールで降雨活動が起こっていることがわかる。インドシナ半島の降水量に関して、数十年にわたる長期変動について、森林減少が降水量の減少につながったとする論文がある。これも、熱帯擾乱、すなわち、台風の襲来数の長期変化によって説明できる可能性がある。また、TRMMなどを利用することで、降水の詳細な日変化の空間分布が明らかになってきた。インドシナ半島の山地部で時間ごとの降水量を見ると、夜間の降水量が多いという特徴も見えてきた。以上のように、さまざまなタイムスケールで降水を評価することで、気候メカニズムのより詳しいメカニズム解明が可能となり、そうした降水条件に基づいた現地の農業生産システムの理解を深めることができる。
【活動の記録】
熱帯域の季節は、年中温暖であるため、主に降水によって特徴づけられる。熱帯域の大規模な降水の季節変化は、熱帯収束帯(ITCZ)と呼ばれる、降水域の南北方向への移動で説明される。ITCZは、太陽放射の南北の季節変化に伴って、大きく見れば、6~8月には北半球に、12~2月には南半球に降水帯が位置する。しかし、衛星画像で世界の降水の季節変化を見ると、帯とよべるような収束帯は見当たらず、ランダムに雲活動が起きているように見える。平均場では、南北の風が収束しているように見えるが、実際には熱帯擾乱活動(台風など)によって小さな(数キロから数千キロ)の降雨活動によって構成される。興味深いことは、ある地点で観測すれば、数日から数週間程度の時間スケールで降雨活動が起こっていることがわかる。北半球夏季東南アジアモンスーンを見てみると、雨季の開始と終了の時点で気候が異なる。とくに熱帯擾乱による降水の影響が大きいことがわかってきた。プレモンスーン期は5~6月に平均的な降水活動と西風モンスーンが始まる前に、雷を伴った非常に強い雨が降ることがある。モンスーン開始期には、インドシナ半島の場合、間歇的に雨季が始まる。その後、6月下旬頃の中休みをへて、モンスーン後半には、熱帯擾乱の活動が活発になる。すなわち、モンスーン域でも、数日から数週間の時間スケールを持った各種擾乱により、雨の日々変動が規定される。西風が降水をもたらすとするモンスーンの従来の説明では、9月の雨を説明できず、これはむしろ、熱帯擾乱が関わっていると考えるべきである。熱帯擾乱の発生から消滅までは数日から数週間のタイムスケールを考える必要がある。
インドシナ半島の降水量に関しては、数十年にわたる長期変動について、森林減少が降水量の減少につながったとする論文がある。これも、熱帯擾乱、すなわち、台風の襲来数の長期変化によって説明できる可能性がある。
また、TRMMなどを利用することで、降水の詳細な日変化の空間分布が明らかになってきた。インドシナ半島の山地部では、夜間の降水量が多いという特徴も見えてきた。以上のように、さまざまなタイムスケールで降水を評価することで、気候メカニズムのより詳しいメカニズム解明と、そうした降水条件に基づいた現地の農業生産システムの理解を深めることが可能となる。
(文責 柳澤雅之)
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