日 時:2008年6月23日(月) 16:00~18:00
場 所:東南アジア研究所東棟2階E207
「地域サスティナビリティ指数の作成にむけて」
報告者:
佐藤孝宏(GCOE研究員)
「環境・生態に関連する指標からのアプローチ」
和田泰三(GCOE研究員)
「人間に関連する指標からのアプローチ」
佐藤・和田
「Tentativeな地域サステナビリティ指数による地域持続性評価
と選択指標の相互関連性」
コメンテーター:
神崎護(農学研究科)
田辺明生(人文科学研究所)
報告要旨:
地域固有性を内含した「生存基盤持続型の発展経路」を見出すために、様々な量的データのマッピングによって地球全体を俯瞰する「生存基盤データベース」の構築と、それを活用した「地域サステナビリティ指数」の作成に着手した。本研究会を上記研究のキックオフ会合と位置づけ、テンタティブな「地域サステナビリティ指数」を提示するとともに、それらの要素となる各種指標についての説明を行い、今後の同研究の方向性について議論を行うことを目的とする。
既存の関連指標を概観すると、環境パフォーマンス指標(Yale大学)には人間 に関連する指標はわずかに環境汚染と関連する健康指標がふくまれるのみである。一方で、人間開発指数(HDI)は平均寿命指数、教育指数、GDP指数の平均から算出するが、これらの要素はすべて狭義のhumanosphereに関連するもので、環境・生態に関連する指標はふくまれない。これまでのパラダイム研究会およびイニシアティブ1における議論を踏まえ、Geosphere, Biosphereを中心とした環境関連指標と、狭義のHumanosphereを中心とした人間関連指標の統合による「地域サステナビリティ指数」の作成を試みる。
【活動の記録】
Geosphereを岩石とレゴリスにより構成される地殻構成部分、Biosphereを生命体とそれを取り巻く環境が相互作用する地球の表面部分と定義し、それぞれの評価指標として各国の1次エネルギー供給量と、バイオマス純1次生産量(Net Primary Production; NPP)を基本とする提案がされた。狭義のHumanosphereの評価指標としては、障害調整生存年(Disability-adjusted life expectancy; DALE)を導入するとともに、人間開発指数(HDI)よりGDP index とEducation indexをそのまま用いたモデルと、GDP indexをはずしたモデルが検討された。上記の発表を踏まえ、3つのsphereに関する指標の組み合わせとして下記の3つのパターンを設定し、世界各国における地域サステナビリティ指数を主題図として示すとともに、人間関連指標と環境関連指標を総和して平均化する手法の妥当性や、今後Qualitativeな研究成果をどのように取り込むかについて問題提起がされ、過去20-30年程度のトレンドの解析を予定していることが報告された。
パターン |
1 |
2 |
3 |
Humanosphere |
DALE |
DALE |
DALE |
Biosphere |
NPP/population |
NPP/population |
NPP/population |
Geosphere |
Population/Energy |
Population/Energy |
GDP/Energy |
地域サステナビリティ指数 3
以上の発表に対し神崎氏は、生態学における持続性についてのレビューなどを踏まえ、提示された指数では環境に対する入力・出力・現存量という、持続性を評価するための3素が表現されていないことを指摘するとともに、性質の異なる3指標を統合することに異論を唱えた。また田辺氏は、提示された指数では「Humanosphere-Sustainable Development」という概念が明確に表現されていないことを指摘し、再生可能エネルギーや人と自然の関係性の指標への組み込み、DALE使用により障害とともに生きる人の価値が過小評価される可能性や、優生学的な視点導入への危惧などを述べた。その他参加者からは、既存指標の積極的利用、「地域サステナビリティ指数」という名称の妥当性、多数の要素の盛り込んだ包括的指数の必要性と指数本来が持つべき単純さとの矛盾など、キックオフ会合という本研究会の趣旨に見合った様々な意見が寄せられた。今後は、これらの議論を踏まえ改良した指数を再提示すると同時に、プロジェクト全体を巻き込んだ議論によって「生存基盤持続型の発展」の持つ意味をより深いレベルで共有することが必要であろう。
(文責 佐藤孝宏・和田泰三)
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