日 時:2008年6月25日(水) 16:00〜19:00
場 所:東南アジア研究所東棟1階第1会議室(E107)
イニシアティブ3においては、人工林のサステナビリティをテーマにした実践研究を行います。実践的な研究の中で、パラダイム形成を進めるものです。研究会においては、フィールドにおける実践的な研究成果の報告を行い、共同研究を募るとともに、それを受け入れる場にしたいと考えております。下記、1)~6)の分類分けは正確ではないかもしれませんが、かなり多様な発表を行いなす。G-COEメンバーの多くの方々の参加をお願いします。同時に、共同研究相手を見つける出会いの場にしたいと思います。
発表内容:
1)地球環境
小林祥子、甲山 治、大村善治、川井秀一:地上観測および衛星観測データを用いたスマトラ島南部における森林バイオマスの動態評価
2)日本と東南アジアとの関係
水野広祐:泥炭地人造林による持続的森林圏の創出
小林繁男:タイにおける住民の森林に期待すること-日本とタイ・インドネシアとの比較(タイのチーク人工林における間伐の効果)
3)森林の利用とバイオ燃料
渡辺隆司、大橋康典:東カリマンタンのバイオ燃料開発の現状と動向(仮題)
林 隆久:アジアバイオ燃料共同開発
Retno Kusumaningtyas: Integrating industry based bio-ethanol production from timber with traditional local community crop production in Indonesia
水野広祐:ジャトロファによる、混作林を利用した地域バイオエネルギー生産システムの創生
4)樹木の育種
鈴木史朗、梅澤俊明:熱帯アカシアの育種
海田るみ:熱帯早生樹の育種的改良
5)生物多様性の保全
藤田素子、生方史数:生物多様性はなぜ維持されないのか?熱帯大規模人工林をモデルケースとした生態学的・社会学的アプローチ
藤田素子:熱帯大規模アカシア植林地で,鳥類の多様性を維持することは可能か?
6)住民・コミュニティへの経済効果
田中耕司、岡本正明、島上宗子、藤田素子:政治・社会・生態空間としての混合樹園地:地方分権下の森林地帯のガバナンス
田中耕司:地方分権下の社会林業政策の行方:スマトラ、ランポン州グヌンブトゥン森林公園の管理をめぐって
石川 登:人工林と地元コミュニティの関係、東マレーシアの事例
【活動の記録】
MHPという会社で共同研究やろうとしたが,テーマによって可否が分かれた.水野先生と川井先生が中心として場所探しを続けているが,時間がかかりすぎる.そこで,それぞれの場所で共同研究を促進するという形にしてはどうか.産業林だけでなくても,人工林の問題を文理融合の立場で研究する可能性を探る。
1. 小林繁男
伐採による土壌へのインパクト.パルプ材用の早生樹だけでなく,木材の生産を考えた持続可能性はどうなのか?タイにて.ユーカリとチーク植林が増えている.伐採の仕方を変えてみる.コーヒーを植えるのは失敗.現地で集材して,競りを行う.マニュアル化が必要.人が森林に何を期待するかを調べたら,タイやインドネシアでは,資源そのものとしての利用や,洪水防止などの涵養機能を期待.日本とは考え方がすこし違う.コストベネフィットを考えることも必要.
2. 小林祥子
炭素動態の把握を目的.木のパラメータごとの相関,それに伴ってC含有量が変化することが分かってきた.現地調査だけでは把握しきれないところを衛星データを用いて解析.解像度・観測頻度の異なる2種類の衛星データを使う(熱帯では雲が多いため).Landsat(光学リモセン)と地上観測データを使って相関を出したのち,Modis(マイクロ波リモセン)を使って補正する.問題点1:バイオマスが多くなると,PAR吸収率が飽和する.アカシア林では3年くらいで飽和?問題点2:下層植生の反射率も考えないといけない.問題点3:地上データがUnit5のものしかない.結論:現場調査が不可欠.林冠の状態,下層植生,土壌の状態のデータを得るために,現地に行く.
3. 甲山治
川井グループの意見として.解析手順の説明.InSARを用いた植生モニタリングの研究はない(広域データが得意). 3班の研究について:川井グループは西カリの日本企業と協同していきたい.シナルマスとは技術的な観点や,インドネシア社会の現状として研究対象になる?泥炭湿地林では開発の失敗例が多い.社会林業プログラムやマングローブ再生,保存林としてのバッファーゾーンを作るなど,環境保全型の林業資源開発をしたい.
4. 水野広祐
泥炭地での林業をどうしたらよいか,は難しい?日本企業で地域社会との関係,生態系への影響を考慮したプログラムを作りたい.8月初めに西カリの現地を視察する.泥炭地開発の問題点はかなり明らかになっている.被覆されることが重要かもしれない.飽和している水を排水せずに植林することで,荒地回復にもなるのではないか。
5. 渡辺隆司
バイオエタノール開発の現状と動向を知りたい.21世紀はバイオマスの争奪戦?土地利用の形態も変革していってしまう.理科系のみでなく具体的な地域のことを知りたい.インドネシアの石油資源:15~20年くらいまで?バイオエタノールを2015年までに5%までにあげたいらしい.ジャトロファは小規模な工場でもオイルができる.それほどPureではないが,グレードが低くても地元の用途(農業機械,発電機など)とリンクした開発ができないか,議論できればよい.成果としてはレビュー形式のものを出したい.バイオディーゼルに関しては,アドバイスはするが,中心課題にはしない.現地大学と協同することも可能かも.
6. 林隆久
細胞壁分解酵素を発現させてきた.バイオエタノールのために,セルロース分解性を上げる.ファルカータでポプラのセルラーゼを発現,早生樹を使ってエタノールを作れるのでは?インドネシア-日本の関係として模索できないか.
7. Retno Kusumaningtyas
インドネシア政府の対応は2025年までにガソリンの20%をバイオエタノールにする.インドネシアは砂糖の輸入国なので,食物との競合がおこる.Sengon(樹木)が適切なのでは?混交樹園地のようなものにできないか.そのことで,地元住民とのパートナーシップが達成できるのではないか.
8. Wil de Yong
熱帯林のガバナンスが変わってきた.近年の傾向:気候変動,化石燃料からバイオエネルギーへの転換,食料価格の高騰.なにが懸念されるか:土地の権利争い(?),外部のひとの参加,共同マネジメント(?).国レベルの決定を地域ごとに,ステークホルダーごとに解析し,必要な調整をして,いくつかの国を比較する(南米大陸も含めて).
9. 田中耕司
地元のひとが何を欲しているかを考えずには,Sustainabilityはありえない!(バイオエネルギーに偏りすぎ)大規模植林地がひとつの極としたとき,混合樹林地が対極にある人工林なのでは.アクターの役割と,造成された樹林地の政治的・社会的・生態的意義をあきらかにしたい.インドネシアの現状:所有者が明確でないままで,混乱を引き起こしている.森林公園に造成された混合樹園地は生態学的には森林とみなされない.生態系機能がどうなっているか?バイオマスの生産,水循環への影響,鳥類相への影響など.自然科学系のひとと協同研究求む.住民の交渉力を高める・グループ間の連携をとっていく.地元のひとの力が強くなるにつれて,調査者のコミットメントを考えていく.混合樹園地などは,3班のもうひとつのテーマとして展開したらどうか.
10. 石川登
調査していたところをアカシア植林地が囲み始めた状況で4年くらい関係を続けてきた.バイオマス(木材)社会を日本企業がどうとらえてきたかを見てきた.調査地はBintuluの流域スケールで村の生成,森林産物のやりとりをみる.すべての民族がいる.早い時期から換金食物を作り,農業はしない社会.木材の時代→オイルパーム.働いているのは外国人.地域住民が大企業にどうやって巻き込まれていくかを見たい.木材伐採からの現金収入が減り,焼畑もできず,生きていける基盤がなくなったので都市への移住が多い.規模の経済学,小農のひとたちがどうやって生きていくかを考えていきたい.人々にとっての森林の意味とは何か?理系の人と協同できるような基盤を整えていきたい.
11. 藤田素子
アカシア植林地では,生物多様性が低いと考えられる.現在は,植林地は増加傾向にあり,2次林は減少傾向にある.ランドスケープ管理をどうしたら,鳥類多様性を保てるかを考えていく.今年度は,残存2次林の構成,面積等に注目する予定である.また鳥フンを介した窒素・リンの移動を探っていく.鳥類の調査と森林の階層構造を重点的に行う.
12. 生方史数
なぜ生物多様性が守られないのか?その理由:多様性の機能と価値がよくわかっていないことと,多様な利害関係者によるコンフリクトが管理制度を崩壊させること.生物多様性保全を可能にするような生態系モデル・社会モデルが考えられるか?生態系の価値を最大化するような管理方法は?また,異なる利害関係者間におけるコンフリクトの経緯と現状の把握をしたい.メタスタディーのようにしたい.
13. 鈴木史朗
熱帯アカシアは育種が進んでいない.耐病性アカシアの育種をする.内在性・外在性抗菌遺伝子の発現.サンプリングののち,アカシアのデータベースからの候補遺伝子の探索,クローニング.
14. 海田るみ
産業林を持続させるには,コミュニティの住民が積極的に栽培するようにしたらよい.そのためには付加価値の高い樹木の育種と植林が必要.例えば成長が早く,セルロース密度の高いアカシアやファルカータの生産.エンブリオレスキュー法によるアカシアハイブリッドの作出(コシナールとの共同研究).GM樹木の作出によって分解性を上げ,木質の糖化レベルを上げる(LIPIとの共同研究)
まとめとして、共同研究を考えてほしいとの要望が挙がった。
(文責 藤田素子)
サイト管理者はコメントに関する責任を負いません。