要旨:
タイ国北西部山岳地域に散在する村落が、過去数十年に亘り辿った農業形態の
変化過程は、背反的な次の二つの経済活動ベクターのせめぎ合いとして理解す
ると、同過程の特質と課題をより的確に把握し得る。その一つは「自給自足的な
陸稲及び水稲耕作の維持」であり、もうひとつは「換金性作物耕作及び非農家
稼業の導入」である。換言すれば前者は伝統農耕型ベクター、後者は市場志向
型ベクターであり、前記の農業変遷ダイナミズムは両ベクター間の「最適な兼ね
合い(optimum trade-off point)」を模索する山地民の試行錯誤の表れといえる。
これまでカレン山村地域の開発問題は、焼畑循環農耕(タイ語でrai mun wian)
の正当性を掲げた政治的活動を巡る「文化強調主義」と、それに付随する負の
影響を指摘するアンチテーゼ(所謂"Karen Consensus")の「経済強調主義」の
二分対立で議論されてきた。しかし山地農業変遷の現状と課題を理解するため
には、両議論を補完的に考慮する必要がある。
この観点から本考察は、タイ国メーホンソン県内に立地するカレン居住山村五ヶ
村(スゴー:3村、ポー:1村、カヤー:1村)を対象に、カレンの人々の主要四生
業(1)焼畑耕作による陸稲栽培、2)水田耕作による水稲栽培、3)換金性作物
栽培、4)賃金労働従事)に照準を当て、異なる環境における経済活動の諸相を
示す。その上でカレンの人々にとって実践的な生業の方策を探る。
(*会終了後には懇親会を行います。こちらも奮ってご参加ください。)
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