日 時:2008年9月22日(月) 16:00~18:00
場 所:東南アジア研究所東棟2階セミナー室(E207)
講師 : 京都大学東南アジア研究所 杉原 薫 先生
「「化石資源世界経済」の形成と構造-エネルギー効率の改善と環境破壊の200年-」
コメンテーター: 京都大学エネルギー科学研究科 石原 慶一 先生
(エネルギーや資源の有効利用と評価システムの体系化に関する研究・ベトナムのエネルギー問題)
コメンテーター: 大阪大学大学院経済学研究科 深尾 葉子 先生
(中国の環境と社会)
【内容】
19世紀に始まる石炭の本格的な利用は、工場制度の成立と第一次交通革命によって、西ヨーロッパとアメリカの主導する「大西洋経済圏」の発展の基礎を提供した。それとともに、これらの地域におけるエネルギー消費の構造は、従来の「バイオマス資源」から「化石資源」に急速に転換し、さらに20世紀中葉以降、アメリカの資本集約的・資源集約的な技術革新が世界経済の生産力のさらなる上昇を主導していった。
しかし、現在この手法での成長の限界が目に見えており、新たなパラダイムシフトが叫ばれているのは周知の通りである。これに対し、東アジアの高度成長国は「資源節約型」と呼ぶにふさわしい発展径路をたどってきた。半世紀から1世紀前に同じ発展段階にあった欧米諸国と東アジアを比較すると、全体としては、一人当たりエネルギー消費においてはるかに低い水準のまま工業化を進めたことがわかる。
他方、熱帯地域に属するアジア・アフリカ諸国の多くは、依然として効率の低いバイオマス資源への依存を続けており、不安定なエネルギー供給によって生存基盤を脅かされている。これらの地域が「化石資源世界経済」が作りだした不均等な発展径路から脱却するためには、単に温帯の先進国の技術、制度を「借用」して後発国の利益を活かすだけでなく、もっと意識的に、熱帯地域に独自の、多様な資源・エネルギーの賦存状況を総合的に理解し、それに見合った価値観、技術、制度を構築していかなければならない。そのような視点から、本研究会では、これら熱帯地域がとりうる発展戦略、エネルギー戦略について議論したい。
【活動の記録】
杉原報告では、国レベルのエネルギー消費等の統計的データをもとに、今後の産業発展と資源利用のあり方が議論された。まず工業化の過程とエネルギー消費の変化について、西洋とアジアが対比的に説明された。20世紀半ばの西洋諸国の産業発展は、商業エネルギー(石炭、石油、天然ガス、電力を指す。なお、この時点での主要な資源は石炭)の消費量の大幅な増加および非商業エネルギーの割合の減少を引き起こしていたのに対し、アジア諸国は工業化の過程において、非商業エネルギーの割合をそれほど減らしておらず、一人あたりのエネルギー消費量も比較的少ない。 つぎに、事例として日本の工業化の過程が取り上げられ、検討された。日本においては土地は希少であったが、木材や水などは豊富であり、その意味ではけっして非資源国ではなかった。20世紀前半に石炭経済への転換において資源輸入国に転じたが、そこでは資源を集約的に利用するかたちで工業化が進められた。その発展、とくに欧米への製品輸出を支えたのが、「オイル・トライアングル」と呼ばれる、欧米・中東・日本の間の交易関係である。しかし、石油の価格が急上昇している現状において東南アジア諸国が同様のことをするのは難しい。とはいえ、バイオマス資源などの石油を代替する資源の比重がそれほど急速に上昇することも望めない。それゆえ、今後のそれらの社会の発展においては、エネルギーを集約したり使い分けたりして、効率的に利用するようなあり方が求められるのである。 つづいて石原氏は、ベトナムにおけるエネルギー生産性(杉原報告において「エネルギー効率」と呼ばれていたもの)について報告した。まず環境クズネッツカーブが示され、ついで産業連関表の分析から、工業化が進むベトナムにおいては、セメント産業および農業セクター(化学肥料を利用しており、化学工業も含む)においてとりわけエネルギー消費が大きく、エネルギー生産性が低いことが示された。 また深尾氏からは、黄土高原において自身が関わる水と緑の回復のための研究の紹介と、現地の現状について報告があった。そこでは石炭資源が豊富であったが、近年急激に価格が上昇しており、農業従事者の生計を逼迫していること、またこれまで現地の現金収入と沿海地域の工業生産を支えてきた出稼ぎ者たちのあり方について、国レベルで見直しがなされようとしていることなどが論じられた。 フロアからは、商業エネルギーの定義について確認があった。またエネルギー消費の転換がうまくいったのは日本が資源国であったことと資源節約型であったことが要因だ、という杉原報告の主張にコメントが集まり、日本の特徴がその対応力にあったことが確認される一方で、資源節約のインセンティブがない国に対して資源節約の技術を普及させるにはどうすればよいか、という疑問も提示された。また深尾氏の報告に関して、中国の経済発展と農業の持続性のジレンマについても議論がなされた。 以上、本研究会においては、経済発展の歴史的なあり方が検討され、その上でそれぞれの国が現在、経済発展の過程で直面している状況が示された。本研究会を通じて、生存基盤持続型の発展のあり方を考えるうえでの課題がより明確化したといえるだろう。
(文責者 木村周平)
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