日 時:2008年10月20日(月) 16:00-18:30 (その後懇親会あり)
場 所:京都大学吉田地区 総合研究2号館 4F 会議室 (AA447)
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/access/campus/map6r_y.htm
講師:藤田幸一先生(京都大学東南アジア研研究所 )
「『緑の革命』と経済的離陸:インドの経験から何を学ぶか?」
講師:若月利之先生(近畿大学農学部)
「水田農業の普及によるアフリカの緑の革命実現とアフリカ型里山集水域の創造」
アジアにおける緑の革命の成果については様々な意見が混在する。しかし、緑の革命がマルサスの人口論にみられる人口/食糧の制約を打破し、多くの人々の生存を保証したことを通して、経済発展の基盤を提供したことは疑いない。
一方、これまでの緑の革命に対する標準的な議論および批判は、土地、労働、資本といった生産要素と各要素の生産性、およびその社会的な分配の側面に偏りがちであった。特に、それが土地以外に投入された「自然資本」や、周囲の環境の持続性、そしてそれらが人々の生存に与える影響といった視点から省みられることは、未だに少ないのではないだろうか。
アジアでの「成功」を踏まえ、現実的には今後アフリカにも緑の革命を、という期待が大きいが、それが成功するためには、上記のような視点も含めてアジアの過去から学び、またアフリカ社会に適合した「革命」でなければならない。
本研究会では、各地域における緑の革命に関する話題を提供し、人々を取り巻く様々な環境要素からなる「生存圏」の発想から緑の革命を再検討することで、人々の生存と持続的経済発展の基盤を提供するための今後のグローカルな食糧生産のあり方に関して議論したい。
【活動の記録】
今回のパラダイム研究会は「緑の革命」をテーマに二人の発表者が異なる視点・事例から発表を行った。「緑の革命」というと一般にコメにおける IRRIや小麦のCIMMYTなどの改良品種の成功として語られることが多いが、最初の発表者である藤田幸一氏(東南研)はインド(とくにパンジャブ地方)における「緑の革命」の進展において、1960年代半ばの大旱魃を背景にした農政の大転換(技術重視へ)、この地域における英国植民地期の灌漑用水路の整備と中規模農民の存在、管井戸の利用などがそれを支えていたことを指摘した。さらに、インドにおける「緑の革命」を1960年代半ばからの第1波と、 1980年代の第2波に分け、前者の時期には国家が農業に力を入れたため工業が停滞したこと、しかしポンプを使った小規模灌漑によって進められた「緑の革命」第2波において、インドの農村全体が豊かになり、工業・サービス部門にマーケットを提供することで、経済が農業生産から「離陸」し、成長していったことを指摘した。以上を見た上で、インドの事例から、農業生産拡大には水のコントロールが決定的に重要であったこと、しかしある程度の人口圧力がないと土地改良投資が行われないこと、経済成長における農村の所得増の重要性、を教訓として示した。 一方、若月氏(近畿大)は西アフリカを中心に氏が進めている実践について発表を行った。まず、アフリカにおいては品種改良が収量の増加をもたらさなかった理由として、土壌の肥沃度の低さや降雨量の不安定さを挙げ、灌漑はもちろん重要だが、適地は全面積の1%ほどしかないということを指摘した。そのうえで、適地をみきわめ、水田をつくって水量を管理し耕作するという一連の技術を移転することで収量の安定的な増加をはかろうという氏のプロジェクトについて説明した。水田は収量の違いや休閑の必要などを考慮すると畑作地の10倍程度の持続的生産性があるが、それを作り上げるためには藪になっているところを田圃に変えるような土地改良が必要になる。氏はデモンストレーションサイトで少数の農民を教育することで、そうした仕組みの普及を図ろうとしている。 質疑応答においては、二つの発表の中心的な問題に深く踏み込んだ議論が行われた。まず「緑の革命」を引き起こす土台となった農民の営み(たとえば江戸時代の農具や肥料の改良など)にも目を向けることが重要であるとの指摘があった。また、ここで取り上げられた二つの農業生産拡大の持続性についての問いかけもあった(インドが一見成功しているように見えるが、実は地下水位の低下などの問題が起きているのではないか。アジアでは大河川によって支えられている水田というシステムが環境の異なるアフリカにおいても持続的だといえるのか)。さらにインドの事例においては農村の購買力と経済成長の関わり、アフリカの事例においては土地改良のモチベーションをどう高めるか、土地改良に関する共同性と個、などの点についても意見交換がなされた。 議論を通じて、食糧生産と経済成長にかんするそれぞれの事例の成功の要因だけでなく、抱えている問題も明確になってきた。持続型の生存基盤に関する新たなパラダイムを形成するためには、この両方の側面について、さらに探究していく必要があるだろう。
(文責 木村周平)
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