日 時:2008年11月12日(水) 15:00〜18:00
場 所:東南アジア研究所 共同棟4階セミナー室
話題提供者:
岡本雅美
岡本先生は、水利調整がご専門で、『水利の開発と調整-その地域的研究』(時潮社、上巻は1978年、下巻は1980年)、『利根川の水利』(新沢嘉芽統先生と共著)(岩波書店、1988年)などのご著書があります。一貫して実学を追及する研究姿勢をとってこられ、『利根川の水利』は、研究書という体裁をとっていますが、内容的には建設省(当時)に対して首都圏での渇水を最小限に抑制するための河川管理対策を具体的に提言されたものです。
国際協力機構や世界銀行の要請で、東南アジア、南アジアや中近東においても、利水管理や国際河川の水利調整に関して多くの仕事をされてきました。しかし岡本先生は、海外での仕事は恐々だったと言われます。それぞれの河川には地域性があり、流域社会の歴史的、社会経済的背景を十分に理解しないまま、河川管理の処方箋を書かなければならなかったからです。そこで懇話会では、岡本先生が水利調整の仕事を通じて理解されたアジア諸地域の水利社会を私たち地域研究者にぶつけていただいて、岡本先生の理解の的確さ/不的確さを確認するとともに、水に関する技術と社会の関係性や実践知について議論したいと思います。
みなさまのご参加をお待ちしています。また、懇話会終了後に懇親会をもちますので、こちらにもぜひご参加ください。
問い合わせ:
京都大学東南アジア研究所
河野泰之
【活動の記録】
本懇話会では,世界各地の水利プロジェクトにアドバイザーとして関わり続けてきた岡本氏によって,諸外国の水利や水利調整のあり方について多岐にわたる話題提供が行われた.以下,参加者との議論の中心になった内容の要約である.
熱帯アジアモンスーン地域における水利調整の難しさは雨季と乾季の存在に起因する.雨季には水田への補給灌漑を行う一方で,乾季にも二期(毛)作のための灌漑が行われるため,雨季と乾季の間での水資源配分を考えなければならない.タイのチャオプラヤデルタでは,これに加えて発電用水の存在や受益地の拡大が水利調整をさらに複雑にしている.湿潤地と乾燥地との違いは,実蒸発散量(実際の蒸発散量)と可能蒸発散量(地表面が十分に湿潤な状況下での蒸発散量)との差により説明できる.湿潤地では両者の差が小さく,灌漑が導入されても蒸発散量が増加する余地は少ない.灌漑用に河川から取られた水も,いずれ大部分が河川に還流する.一方乾燥地では両者の差が大きく,灌漑の導入によって実蒸発量が顕著に増加する.灌漑用水として河川から取られた水は蒸発散により大気中に放出され,河川に戻ることはほとんどない,アラル海の問題はこうした背景を有する.参加型灌漑管理(PIM)の導入が世界銀行の融資を受ける必須条件となっている.日本の灌漑管理は参加型灌漑管理の模範とされるが,日本の農村社会はもとより水利を前提としており,農村社会には最初から水利組織が組み込まれていた.さらに日本の水利組織は制度面でも下支えされていた.水の分配を巡る平等性は年貢を村として負担する村請制度の存在に依る所が大きく,日本の水利組織は村請制度に下支えされてきたともいえる.こうした背景のない社会に参加型灌漑管理(PIM)は成り立たない.灌漑のための水利組織は村落共同体とはまったく別個の体系として存在する.いかに強固な村落共同体でも,水利を前提とした組織でない以上,水利に関しては統制力を欠く.
上記に対して出席者からは,各自のフィールドにおける水利調整の事例が紹介されたほか,多雨月数と地形あるいは実蒸発量/可能蒸発量と気温を指標として世界各地の農業の類型化が出来ないかといった提案や,乾季稲作や水利組織の有無によって水利形態の分類が可能ではないかといった提案等がなされた.
(文責者 星川圭介)
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