片山 祐美子(アジア・アフリカ地域研究研究科 アフリカ地域研究専攻)
特別な日、タムタムとよばれる太鼓の音色が村中に響き渡る。子供の命名式や結婚式、断食明けのお祭りや一頭の羊を神に捧げる犠牲祭、種まきのときや収穫のときなど、とにかく嬉しいときにはタムタムである。タムタムは一般に、それぞれのリズムを叩く男性3人で演奏され、それらがひとつのリズムとなって響く。グリオのタムタム奏者の家系に生まれた者のみが演奏することのできる特別な楽器だ。女性たちが農作業を集団で行う際には、女性タムタム奏者も登場する。暑さにうなだれ、足腰が痛くなるつらい農作業も、タムタムさえあれば天国のようなひとときだ。農作業中、彼女たちの腰は太鼓に合わせて揺れ、ひと段落着けば田んぼの中に円陣作って大地を踏み鳴らす。村への帰り道、太鼓とともに女性たちの歌声が響き渡り、村に着けば子供たちも混ざってのダンスタイムが始まる。
男性は農作業中に踊ったりしない。青年たちが今風のカセットをかけているか、ラジオを聴きながら農作業をする程度で、いつも女性たちの声であふれる水田に比べると男性たちの畑は静かだ。農作業に限らず、タムタムの周りにいるのはいつも女性である。
そんな男たちが、主役になれる日がある。それは、割礼にまつわるお祭りのときだ。村ではたいてい、男女を問わず子供は10歳頃までに割礼を済ませる。割礼に際して執り行われる儀式は、近年では薄れてしまったというが、現在でも割礼を受ける男の子たちは森の中で一週間ほどを過ごし、割礼を受けて、大人の男になるための教育を受ける。少年たちが割礼を受けるために家族のもとを離れる日、カンクランとよばれる茶色い衣を纏った割礼済みの男性の守護者とともにタムタムが村内に響く。女性や割礼を受けていない子供は、目が合うと死ぬとされるカンクランの登場とともに我先に家の中へと駆け込むことになる。このカンクラン、叫び声が気味悪い。割礼のため子供たちが森で過ごしている間、夜中に森のほうから「アー」という甲高い声が聞こえてくる。その声は徐々に大きくなり、寝ている家の前まで来ることも。特に祭りごとなどではないときにでも、昼夜関係なく聞こえてくることがある。農作業中の女性たちは作業を中断し、村へ逃げ帰らねばならない。
割礼の儀式が終わると、子供たちのお披露目となる。頭に伝統的な布をかけられ、首には飴玉の袋とビスケットで作られた首飾りをぶら下げ、目にはなぜかサングラス。もちろんこの日もメインは男性。割礼を受けた女の子は端に追いやられ、男の子たちがずらりと中心を陣取る。朝からカンクランや青年たちが村を練り歩き、昼にはタムタムの周りを男性が取り囲む。女性とはまた一味違った男たちの踊りは、とても力強いものだ。その力強い男たちの踊りに、タムタムの音は一層大きくなり、女性たちの黄色い歓声が、歓喜に沸く村を飾る。
男たちが主役のこんな日、タムタムの周りは女性たちで埋め尽くされることに、結局はなるのだが。
サイト管理者はコメントに関する責任を負いません。