日 時:2009年1月23-25日
場 所:KKRホテルびわこ http://www.kkrbiwako.com/index.htm
【活動の記録】
本シンポジウムでは、人類学や地域研究を中心に40名程度の若手研究者が集まり、3日間にわたって、5つのセッションで10の研究発表が行われ、現代社会における地域/社会のあり方の変化に対応するような新しい研究のあり方を目指して、インテンシブな議論が展開された。セッションや懇親会などでの議論を通じて、多様な地域・テーマを扱う研究者が集まりつつも、それを貫いて、まさに「同時代性」とでも言うべき、相互に共有できる状況や問題にそれぞれの研究者が直面していることが明らかになった。
初日のセッション1「市場経済化と空間の再編成」では、西垣が急激な市場経済化が進められたモンゴルのウランバートル市における遊牧民のゲル地区の形成とそこでのNGOの活動の相互作用から公共空間が再生していることを指摘し、細田は、フィリピンの農村から都市への移住の経験と呪術世界の変容の関係を示した。討論では、市場経済化があらたな社会空間を生み出している現代的状況について議論が交わされた。
2日目のセッション2「生存を支える生業/生態環境の動態」では、長倉がレソト山岳民を対象に、出稼ぎブームの前後の社会変化と彼らの高度差を利用した土地利用との関係を実証的に示し、鈴木がミャンマーの焼畑農耕民が暮らす森林植生の長期変化と近年の政策の影響を指摘した。この二つの報告をもとに、生態環境の動態をいかに政治的な状況との関連のなかに位置づけるか、議論が行われた。そしてセッション3「宗教のダイナミズムと地域社会の変容」では、小河がタイのイスラーム復興運動が地域社会にもたらした軋轢や葛藤を示し、池田はレバノン内戦という文脈における宗教と宗派というカテゴリーをめぐる考察を提示した。セッション4「紛争のなかの生存基盤」では、佐川がエチオピアの牧畜民の戦いと歓待というふたつのモードの転換が戦いの集団性と個人間の社会関係の構築とのあいだで生じていることを論じ、久保がビルマの難民キャンプで繰り広げられるさまざまな援助活動の実態と複数の対立的なアイデンティティの状況について、興味深い議論を展開した。最終日のセッション5「国家の福祉政策と生活世界」では、山北が日本の野宿者を含みこむようなコミュニティ=地域の「福祉」の可能性について議論を展開し、倉田はサモアの保健医療サービスの構築過程が植民者・国家行政・住民の相互作用のなかで展開してきたことを示した。
最終日の午後に行われた総合討論では、地域研究が置かれている現代的な状況をふまえ、調査者とローカル社会の価値との倫理的対立をどう乗り越え、それをいかに実践につなげていけるのか、議論を行った。
本シンポジウムからは議論の成果として合計8本のワーキングペーパーが生み出されたが、それに加えて関西圏を中心とした若手研究者のネットワークが構築されたという点からも、きわめて実り多いものになったといえる。
(松村圭一郎・木村周平)
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