日 時:2008年11月20日(木) 16:00~18:00
場 所:総合研究棟4階大会議室(447号)
報告:
1.小杉泰「イスラーム経済を考える--比較文明論および生態基盤論から」
2.長岡慎介「現代イスラーム金融の理念と現実--普遍化と独自化をめぐるダイナミズム」
発表趣旨:
イスラームの教義に適合的な経済システムを現代世界に再構築させようとする試みは、20世紀半ばころからイスラーム世界の法学者や経済学者たちによって着手され始め、1970年代の現代イスラーム金融の登場によって金融セクターにおける実践が本格的に始められた。現代イスラーム金融は、その登場以来、イスラーム世界の内外で目覚ましい発展を遂げているが、そこでは、イスラーム的理念の実現のための金融システムの構築と在来型金融と十分に競争可能な金融システムの構築という2つの目的の間で活発なせめぎあいが見られてきた。そこで、本報告では、現代イスラーム金融におけるそのようなレジティマシーとフィージビリティーをめぐるダイナミズムを事例から明らかにするとともに、そのようなダイナミズムの渦中にいる多くの当事者(法学者、経済学者、実務家)たちが共有していると考えられる独自性がなんであるかを検討し、その歴史的意義を探ることを試みたい。
【活動の記録】
イニシアティブ1では、グループ全体としての活動に加え、3つのサブグループにおいても個別の研究テーマを設定し、活動を進めている。本研究会は中東・イスラーム・サブグループによる研究成果を報告するもので、その中でもイスラーム経済に特化した研究会となった。まず、第1発表者の小杉氏は、サブグループにおけるこれまでの研究活動を簡単に報告した後、イスラーム経済成立の歴史的経緯と、その独自性を規定するイスラーム法の基本構造について概説した。さらに、経済活動に関するイスラーム法解釈の歴史的変化を分析するとともに、教経統合論およびイスラーム復興運動の構図の中で、イスラーム経済がどのように位置づけられるかについて論じた。第2発表者の長岡氏は、イスラーム世界の経済活動として近年急速な拡大を見せている、現代イスラーム金融に関する発表を行った。現代イスラーム金融における金融システムを具体的に説明し、これら金融商品の進化過程において「リバー」の解釈が当事者たちによっていかに行われてきたかに詳説するとともに、現代イスラーム金融の歴史的意義についても論を進めた。
イスラーム復興運動の1つである現代イスラーム金融は、聖典クルアーンというイスラーム世界の生存基盤と、従来の資本主義的な金融システムとの接合によって生成された、人間圏における持続型生存基盤システムの1つとして捉えることが可能であろう。今後は、このようなイスラーム的システムと、乾燥オアシスに代表されるイスラーム世界の自然環境との関連について検討し、地球圏・生命圏・人間圏のすべての圏における持続性を考慮したパラダイムとして提示すべく、更なる議論を進めてゆく必要がある。
もうひとつ、ディスカッションで問題になったのは、なぜイスラーム世界では「リバー」が禁止となったのか、そしてその現代資本主義にとっての意味である。現代資本主義では利潤を追求することが基本原理であるが、利潤は利子と経営者報酬に分解できると理解されている。イスラーム原理が現代資本主義を超克していく可能性を追求していくとすれば、そのあたりを整理していくことが今後の課題となるであろう。
(文責 佐藤・藤田)
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