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「地域研究では「思い入れ」をどう表現するか」[地域研究方法論研究会](関連する学会・研究会)


人はなぜ地域研究に引きつけられるのか。「就職がいいから」でも「研究費がとりやすいから」でも、ましてや「ほかの研究科の入試に落ちたから」でもないはずです。地域研究は、研究者、研究対象、そして研究成果を利用する人々のいずれにとっても魂の救済になる学問実践なのだという希望が見えたために違いありません。
ただし、その希望が一時的に見えにくくなっている人もいるかもしれません。その原因の1つには、地域研究では何をやればいいのか、何をやったら地域研究として認められるのかについて、明確な基準がわからないということがあるのではないかと思います
このことは、学問的ディシプリンとしての地域研究の確立と関係しています。「地域研究はディシプリンであるかないか」についてはいろいろな立場や考え方があるでしょうが、この研究会ではこの問いはひとまず棚上げにしておきます。その上で、「地域研究」という名前の学問分野が10年後も20年後も残るようにするにはどうすればいいか策を練るのではなく、「地域研究」の名のもとで現在行われているさまざまな営みをとり出し、次世代に継承可能な形で言葉で記述することがこの研究会の目的です。
この研究会で取り組むべき課題はたくさんありますが、いずれも地域研究に携わる組織や人々の協力なしに実現できません。研究会の本格的な活動に先立って、まずは地域研究に関連する大学院の研究科をいくつか訪れて、地域研究を教えたり学んだりしている現場の人たちとの議論を通じて、地域研究の方法論として何が求められているのかを考えたいと思います。
東京大学駒場キャンパスでの第1回研究会に続き、第2回となる今回は早稲田大学早稲田キャンパスで行います。

日時  2008年2月10日(火) 14:00~17:00
会場  早稲田大学・早稲田キャンパス 26号館(大隈記念タワー)502号室
(地下鉄・早稲田駅より徒歩5分、JR線・高田馬場駅より学バス利用、終点・早大正門駅より徒歩1分)
http://www.waseda.jp/jp/campus/waseda.html

話題1 山本博之(京都大学地域研究統合情報センター)
「地域研究では「思い入れ」をどう表現するか」
話題2 柳澤雅之(京都大学地域研究統合情報センター)
「地域研究は科学か?」
話題3 久保慶一(早稲田大学政治経済学部)
「「フィールドワーク」を分解する――バルカン政治比較研究の視点と経験から」
討論

主催 地域研究コンソーシアム・地域研究方法論研究会
共催 京都大学地域研究統合情報センター・共同研究プロジェクト「地域研究方法論」
問合せ先 山本博之、久保慶一

報告要旨

「地域研究では「思い入れ」をどう表現するか」(山本博之)
定義に従って切り取られた対象を相手に厳密な検証を進める型の研究と異なり、地域研究は(たとえその対象がより大きな全体社会の部分集合にすぎないとしても)対象に全体性を見出そうとする。そのためもあって、地域研究では書き手の「解釈」や「思い入れ」を完全に排除して結果を出すことは現実的でない。では、地域研究では「解釈」や「思い入れ」をどのように研究に組み入れてきたのか。心を打つ論文は、よく読むと、議論に飛躍があるのではないかと思える箇所がある。実はその部分こそが著者がその論文で一番思いを込めた箇所で、「泣かせる」部分になっていることが少なくない。この報告では、東南アジアのナショナリズム論からいくつかの論文を例にとり、「ぼかしどころが泣かせどころ」の実際を味わいつつ、
先行研究に隠された課題を読み解く試みとして、自らの研究を例にとって考えてみたい。

「地域研究は科学か?」(柳澤雅之)
厳密な客観性と再現性が求められる自然科学は、地域ごとに状況が異なり事象の再現性もきわめて少ない地域社会の研究をどのように進めてきたのか。本報告では、自然科学者による地域研究を題材にして地域研究の「科学」性について検証することで、地域研究の方法論を考えるというアプローチをとる。客観と主観、再現性と特殊性、あるいは普遍性と個別性の二項対立を超えて地域研究を推進するためには、ディシプリン間の整合性、あるいはディシプリンと地域社会の論理の整合性をとり、地域社会をより広域の社会の中で相対化することが必要である。

「「フィールドワーク」を分解する――バルカン政治比較研究の視点と経験から」(久保慶一)
地域研究の方法論の確立にとっての一つの重要課題は、要となる「フィールドワーク」の方法論の確立であろう。しかし、実施方法が千差万別のフィールドワークについて、無限の固有性を越えて方法論を確立することは可能だろうか。本報告は、この点について考察するために、「フィールドワーク」を報告者なりに分解することを試みたい。本報告は、それを二つの点から試みる。第一は「フィールドワーク」と「机の上の作業」の関係である。地域研究で有益な成果をあげるためには、両者の間に有機的な連関が必要と考える。第二は「フィールドワーク」の実践論である。調査を実施する際に研究者はどのような点への配慮が必要なのか。そうした実践論の部分こそ、経験の体系化と世代間の継承が必要であると考える。そこで本
報告では、フィールドワークの実践論において検討されるべき点は何かについて、自らの経験や失敗談なども交えて考えてみたい。


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