Custom Search

Language

Contents

アンケート

本サイトをおとずれた理由

本サイトをおとずれた理由は何ですか?

  •  プログラム概要閲覧
  •  研究会情報
  •  プログラムメンバー
  •  フィールドステーション
  •  報告閲覧
  •  プログラム成果閲覧
  •  写真閲覧
  •  公募
  •  その他
このアンケートにはさらにもう 2 件、質問があります。
結果
他のアンケートを見る | 96 voters | 0 コメント

ログイン

ログイン

「健全な生態系とは何か?生物多様性条約は何を守るのか」[第20回研究会] (G-COEパラダイム研究会)

活動の記録>>

日時 7月13日(月) 15:00-17:30 (その後懇親会あり)  ←通常よりも早い15時開始
場所 京都大学 東南アジア研究所 稲盛記念館3F大会議室
http://www.cseas.kyoto-u.ac.jp/about/access_ja.html

講師:松田裕之(横浜国立大学・環境情報研究院)
「健全な生態系とは何か?生物多様性条約は何を守るのか」
コメンテーター: 山尾政博(広島大学)
 

環境問題はグローバルな問題であると同時に,ローカルな問題でもある.なかでも生物多様性は政治的な側面が強い反面,地域の人々の生活に密接に関連する.程度の差こそあれ,人間は生態系の恩恵に頼らなければ,生存できないからである.しかし,人間による干渉が強すぎる場合,生態系が元の恩恵を授けなくなることがある.このような生存基盤の崩壊を,どうやって防ぎ,持続的な発展を行うのか.今回は松田裕之氏を招き,氏が取り組んでこられた水産資源の持続的利用における生態系管理などの具体的事例を織り交ぜながら,健全な生態系とはどういうものか,COP10に向けた最新の動向を含めて解説していただく.特にこれまで,生態学的な資源モデルでうまく扱えなかった生き物の不確実性を組み込んだ順応的生態系管理について,その目指す方向性や,政治的・国際的な側面と地域レベルでのギャップをどう埋めていくのかについて議論したい.
 

[講演要旨]
2010年秋、名古屋で生物多様性条約締約国会議(CBD/COP10)が開かれる。気候変動枠組み条約において、温室効果ガス6%削減が日本に課せられた京都議定書に次ぎ、「生物多様性を守る」ための数値目標の合意に向けた動きがある。日本は議長国として、それをまとめる重責を今回も担う。しかし、それが守る対象、評価基準、行動規範については、気候変動問題以上に混迷を深めている。日本は議長国を買って出ながら、長期的視点がかけている点も変わらない。
 

本講演では、COP10で議論される候補として、①Ecological Footprint、②生物多様性指標、③生態系サービスの3つの指標を取り上げる。
 

 

【活動の記録】

今回のパラダイム研究会では,講演者の松田教授は多彩なデータから,どのように生態系を守り利用すべきかについての報告を行った.生態系の保全は生存基盤の持続に直接的に関係する重要なテーマであるが,特に科学的なデータを元に社会の合意形成をする際に,情報の確からしさをどう判断し政策の決断につなげたらよいか,といった点を含めて解説され,非常に分かりやすい発表であった.

例えばおおかたの水産学者は,限られた海域のデータから漁獲量は減少していると判断するのに対し,氏は東南アジアなどのデータでは逆に漁獲量が増えていることに注目し,より広い視野で見ることの重要性や,齢構成を考慮した漁業を行うことで持続可能であると主張した.また知床世界遺産の経験を例にあげ,特に沿岸域の持続的な漁業には,漁民による自主規制が非常に有効であることを示した.

次に氏は生物多様性に話題を移し,COP10に向けた取り組みの問題点として,明確なインセンティブが作られにくい生物多様性というテーマのもつ特性が,その注目度の低さの一因であるとした.そこで,生態系を守る取り組みに資金を援助するなどの制度を,Ecological Footprintを活用して提案する可能性や,生物多様性自体の取引を行う取り組みについても紹介された.一方で,生物多様性の比較的豊かな日本の森林では,生産性という面からは生態系サービスが低下することなどを示し,生物多様性とその他の恩恵が必ずしも線形関係にないことなども強調された.このような状況のなかで,不正確な情報に基づいてどのようなインセンティブを打ち出していくかが重要であることが伝えられた.

コメンテータの山尾教授は,東南アジアの漁村経済の専門の立場から,フィールドからの視点を持つことと,地域の生計戦略とのギャップ,そしてアンダーユースという考え方の持つ危険性の3点についてコメントした.まず,国と地方との政策ギャップが大きくなり,権限だけを与えられた地方が右往左往している東南アジアの現状を報告し,破綻した地域主義の代わりに中間組織的なものを媒介としてはどうか,との提案をされた.次に生物多様性が貧困を生みだす可能性を指摘し,資源利用に関しては地域のみでなく家計レベルも含め,多角化した戦略をとる必要があると述べた.最後に,日本における中山間地のアンダーユース(過少利用)によって生物多様性が低下する可能性が指摘されていることを受け,その思想が農林水産業の持続なのか否か,何を主張していくのかを明確にするべきであると指摘した.
 
これらの発表を受け,フロアからは十数人による活発な意見交換が行われた.温帯では二次的な自然が生物の生息地であるが,熱帯にはまだ本来の一次的な自然が残っているために,絶滅危惧種の取り扱いに関する違いが生じることや,面積当たりの種数が圧倒的に多い熱帯では,なぜそれだけの多様性が保全されねばならないかを生態系サービスで説明することが難しい,といった意見がでた.それに対して松田氏は二次的な自然であっても生息できる種が多いことが持続可能な管理を行っている指標になりうるという見方を示した.また南北での生物多様性に関する取り組みに差が生じるといった意見に対しても,氏は日本の森林生態系を守るためには東南アジアではなく日本の森林・林業を考える必要があると主張した.さらに,FSCの視点からは,熱帯の森林はほとんどがHCVF(High Conservation Value Forests)になり,生産林を必要とする住民には不利になるという点も指摘された.また生物多様性の数値目標の必要性に関しても疑問の声が上がったが,松田氏は励みになるという意義を認めたうえで,グローバルスタンダードよりも個別に対応する必要性を提示した.特に生物多様性のクレジット取引が考慮され始めている状況に憂慮し,ここにも南北問題が隠されていることを述べた.最後に,水産資源の変動を追うモニタリングの難しさゆえに乱獲が起こる事態が,なぜ日本の沿岸漁業で起こってしまうかという疑問に対しては,沿岸漁業と沖合漁業とのシステムの違いから説明できるとした.
 

(文責 藤田素子)

 

  • 「健全な生態系とは何か?生物多様性条約は何を守るのか」[第20回研究会] (G-COEパラダイム研究会)
  • 0コメント
  • アカウント登録

サイト管理者はコメントに関する責任を負いません。