日 時:2009年4月20日(月) 16:00~18:00
場 所:京都大学東南アジア研究所 稲盛財団記念館3階大会議室
趣旨:
我々のグローバルCOEが開始して2年弱がたつが、その間、新しい地域研究のパラダイムを構築すべく、本パラダイム研究会を開催してきた。その間、「文理融合」「視点のズームイン・ズームアウト」「圏間の融合」「生産から生存へ」「ネットワーク化」「Humanosphere」等のキーワードが生まれ、新しいパラダイムの萌芽が見えるようになってきた。今回のパラダイム研究会では各イニシアチブでの成果と方向性をフレッシュな視点で報告し、生まれかけている新しいパラダイムに関して議論を始めたい。
講師:
1. 京都大学東南アジア研研究所 藤田幸一先生
「農業社会から工業社会へ、それからどこへ」(仮題)
2. 京都大学東南アジア研究所 藤田素子さん
「都市環境における鳥と人との相互作用系」
3. 京都大学生存圏研究所 林隆久先生
「リアウにおけるG-COE再構築」
4. 京都大学東南アジア研究所 速水洋子先生
「人間圏における生のつながり:生存基盤としての再生産再考」
[講演要旨]
「都市環境における鳥と人との相互作用系」(藤田素子さん)
ヒトが作り出した都市環境には,様々な生物が適応している.そのような鳥類の代表であるカラスは,ゴミを食べることで個体数を増やしてきた.しかし,そのゴミ由来の窒素・リンが糞の形で,ねぐらである都市の林に運搬されることが分かってきた.つまり,意図せずして,森林生態系は富栄養化しているのかもしれない.ヒトの起こした環境の変化に適応した生物と,それに伴い変化する生態系機能についての事例を紹介する.
「人間圏における生のつながり:生存基盤としての再生産再考」(速水洋子先生)
イニシアテイブ4のキーワードとなっている連鎖的生命は、人間圏と生命圏をつなぐ生命観として田辺リーダーが提唱したものである。今回は特に人間圏の側からこの問題を考えるために再生産の概念を再考する。
【研究会の趣旨】
我々のグローバルCOEが開始して2年弱がたつが、その間、新しい地域研究のパラダイムを構築すべく、本パラダイム研究会を開催してきた。その間、「文理融合」「視点のズームイン・ズームアウト」「圏間の融合」「生産から生存へ」「ネットワーク化」「Humanosphere」等のキーワードが生まれ、新しいパラダイムの萌芽が見えるようになってきた。今回のパラダイム研究会では各イニシアチブでの成果と方向性をフレッシュな視点で報告し、生まれかけている新しいパラダイムに関して議論を始めたい。
藤田(幸)報告では、農業社会から工業社会へ移行するきっかけとして、人口増加などによる資源制約を挙げる貧困プッシュ説に着目することで、アジアの現代社会は部分的に工業社会に取り込まれた故に苦しんでいるという見方を提示した。しかし、もはや農業社会には後戻りできないため、工業化やその成否を左右する農業生産性の向上といった開発路線が安易に否定されるべきではないとし、その意味で「生産から生存へ」という本GCOEが掲げるコンセプトには違和感があることを指摘した。藤田(素)報告では、人間圏と生命圏の相互作用が予期せぬところで起こっている例として、都市環境における鳥と人の相互関係が示された。都市化によって、鳥類相の多様性は減少するものの、一部の鳥は都市生態系に適応し、都市に持ち込まれた系外の物質を利用することを通して生態系機能にも影響を与えていることを例証した。林報告では、インドネシア、スマトラ島リアウにおける共同研究サイトが紹介され、今後進めるプロジェクトの枠組みと進捗状況が報告された。共同研究の例として、報告者自身による糖化されやすい樹木の実験による開発と自然林での探索という実験とフィールドの融合研究が紹介された。速水報告では、家族、労働力、社会システムの再生産を「生のつながり」として捉えることで、生産中心のシステムに従属することを余儀なくされた再生産領域を見直し、より自由な生のあり方を模索する報告者の視点が語られた。ヨーロッパにおける「近代家族」の生成と東南アジアの「家族」を対比させ、後者の中に、生物学的なつながりに限定されない、価値付けを含む生の継承の根幹となる関係性の再生産を見いだしていることが報告された。
議論
以上のような報告に対し、多くの質問やコメントがなされ、活発な議論が行われた。まず、工業化に関しての質問として、貧困プッシュ説のような説明は、工業化の要因としては一面的ではないかといった指摘や、部分的な工業化が問題だということと、でも工業化は必要だということが矛盾しており、「生産から生存へ」というキーワードは、この矛盾をどう解決するかを考える際に重要なのではないかといった意見があった。都市と生態系に関しては、生産と生態系維持のバランスをどこでとるかが重要であること、生態的な見地からどう都市がデザインできるかを考える必要があることなどが指摘された。家族と再生産に関しては、私的な領域を超えた公的な意味での再生産とは何かという質問や、再生産を文化や意味体系として強調しすぎると、生存基盤の考察をそれらに限定してしまう危険性があるのではないかといった指摘があった。
これらの議論を通して、これまでの各イニシアティブの活動と、新たな活動との橋渡しをすることができ、特に「生産から生存へ」というキーワードについて議論を深めることができた。
(文責 生方史数)
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