日 時:2009年6月12日(金) 10:00-12:00 (その後、夕刻に京都市内で懇親会あり)
場 所:稲森財団記念館3階小会議室II
講演者:大崎 満(北海道大学)
講演題目:インドネシアの泥炭-森林における火災と炭素管理
コメンテータ:甲山治(京都大学 東南アジア研究所)
研究内容:
JST/JICA地球規模課題対応国際科学技術協力事業により、インドネシアの泥炭・森林における火災と炭素管理のプロジェクトについて研究を紹介していただきます。熱帯泥炭の保全・修復により地球規模での温暖化抑制についての話をして頂くとともに、北海道大学サスティナビリティ学教育研究センターの活動についても紹介していただきます。
1.泥炭湿地林の炭素管理について
地球上で大規模な森林が残っている地域は、インドネシア、ブラジルのアマゾン流域および中央アフリカの3か所であり、これらの熱帯の森林が有する泥炭は83.8 Gtと見積もられる。このうちの約50%をインドネシアが占めており、インドネシアの泥炭湿地林を保全・修復することの重要性が挙げられる。インドネシアの泥炭湿地林火災で放出されるcarbonは、エルニーニョのあった1997,1998,2002では1.6 Gt/yearと推定されている。日本のcarbon emission、 0.3 Gt/yearに比較し、熱帯泥炭湿地林の保全・修復がいかに温室効果ガスの削減に寄与することかが理解される。
北海道大学JST-JICA 地球規模課題対応国際科学技術協力事業プロジェクト(2009-2014)のプログラム「インドネシアの泥炭-森林における火災と炭素管理」では、インドネシアカリマンタン中央部セガンガウ国立公園に隣接するメガライスプロジェクト地域をフィールドとして研究が進められている。泥炭湿地火災は、地下水分量と関係しており、火災を防ぐために地下水位(water table)をコントロールすること(地下水位50 cmが目安とされている)の重要性が指摘された。このプロジェクトでは、(1)サテライトセンシングによる地下水位の計測、(2)カーボンアセスメント(計測器を3か所に設置)、(3)バイオマスと泥炭の相関性の評価等行い、これらのデータを基に泥炭のマネージメントを行っていくことが目的である。また、自然環境を守りながら人々の生活が成り立つような社会システムの管理の在り方をも考えていかなればならない。
また、CO2を削減するための制度として、クリーン開発メカニズム(CDM)やレッド(REDD)がある。このREDD制度に泥炭湿地を加えたいと考えている。本プロジェクトのもうひとつ大切な目的は教育である。研究を通して、ローカルな文化・知識を礎に環境倫理を考えられる、サスティナブルソサイティを築けるリーダーを養成する。
2.根圏の栄養生態について
泥炭湿地の土壌は、硫酸酸性のためpH 3という極度な酸性であること、また、土壌養分が溶脱し、ポトゾル化して貧栄養状態となっている。このような土壌にも耐えられる樹種として、メラルーカ、ソレアやゼロトンなどが植林されている。これらの樹種は、有機酸を分泌してアルミニウムをキレートし、アルミニウム毒性を下げて自身の生育を可能にしていると考えられる。根圏を制御できる樹木が泥炭湿地で生育でき、森林の再生に利用可能である。 泥炭の表層から1 m の層は、微生物が豊富であり、この層が樹木の生育に必要である。
コメント(甲山):
(1) 熱帯の降水量の多さが泥炭湿地の形成に関与している。
(2) 現在の植林地が放棄された場合、どのようなリハビリテーションが有効であるかとの質問に対して、現在、オイルパームプランテーションが存在するが、オイルパームの付加価値を安定させる社会システムの構築が必要である(大崎)。
(3) 元の状態,もしくは別の局所解に達するまでの要するタイムスケールに関する質問に対して、水分蒸発量などを計測し、シミュレーションすることが可能である(大崎)。
(4) CO2収支,微生物,植物に関する質問に対して、モニタータワーによる観測を2002年から開始している。このデータをFFPRI FluxNet(森林―大気間の水蒸気、CO2、エネルギー輸送に関する森林総合研究所のフラックス観測ネットワーク)に載せる予定である(大崎)。
(文責 海田るみ)
サイト管理者はコメントに関する責任を負いません。