【演題】身分契約の人類学――人と人との絆を律する法とは何か
【コメンテータ】松村圭一郎(京都大学大学院人間・環境学研究科助教)
【要旨】
血盟は、血液の交換による関係構築という側面を捉えて、身体の次元で操作される社会性・共同性の様態をよく示す事例とみなされる古典的事例のひとつである。血盟研究を再検討したルーズ・ホワイトは、市場経済と植民地行政が東アフリカの諸社会に浸透する過程で現れた都市に潜む吸血鬼をめぐる噂話を分析し、血盟における血液が人格の個別性を備えていたのに対して、吸血鬼が吸いとる血液はそうした個別性を欠く匿名的なサブスタンスだったと対照し、植民地化以降に血液が「全く新しい別の意味合い」を持つようになったと述べている。本報告は、以上のような仮説を法人類学の見地から再考し、身分契約の例外化(下記)を批判する。これまでの社会科学のなかで、血盟は婚姻とならび、それが当事者双方の意思表示の合致によって成立する身分上の取決めであり、かつ双方に対して拘束的な権利義務関係をもたらすことから、「身分契約」と呼ばれてきた。同時に、自由意思の合致による権利義務発生のメカニズムを特徴とする点において身分契約は「通常」の財産法上の契約と同様だが、効果として生ずる婚姻関係と市場取引における当事者間関係とは性質が明らかに異なるとされ、身分契約は契約であるが、財産法上の契約と極めて異なっており、多くの点で特殊の性格をもつとされる。例えば、マックス・ウェーバーは、目的契約と身分契約との対比のうちに形式主義と反形式主義との対立を見た(婚姻ならびに兄弟契約を「身分契約」として概念化し、市場における財貨取引に顕著な「目的契約」と対比させた)。本報告では、目的契約と身分契約との間の古典的な二項対立に手を入れて、財産法上の契約のうちに、さらには婚姻・兄弟分・養子縁組に代表される身分契約のうちに、互いに対立する二つの定式化(形式的規定と実質的理解)の拠点を認めるところか、あらためて身分契約の社会的組成を考えてみたい。
【備考】
*事前の参加予約は必要ありません。
*当日は、資料代として200円をいただきます。
*京都人類学研究会は、
【お問い合わせ先】
inq_kyojinken[at]hotmail.co.jp
6月例会担当 木村周平 松尾瑞穂 井家晴子
京都人類学研究会代表 田中雅一
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