日 時:2009年6月30日(火) 16:00~
場 所:東南研東棟105
Tsing, Anna(2005)Friction: An Ethnography of Global
Connection.Princeton UP.
参加者はA4で1枚程度、要約とコメントを書いてお持ちください。
詳細は木村(skimuracseas.kyoto-u.ac.jp)まで
【活動の記録】
今回はAnna L. Tsing著Friction: An Ethnography of Global Connection(Princeton University Press、2005年)を読み、出席者がもちよったペーパーをもとに内容の検討と議論を行った。なお、出席者は秋山、加藤(以上ASAFAS)、内藤(CIAS)、生方、清水、宮本、石川、木村(CSEAS)である。
著者のAnna Tsingはカリフォルニア大学サンタクルス校の教授、主にカリマンタンで調査をしてきた人類学者であり、前作In the realm of the diamond queenも本作も、民族誌としての評価はきわめて高い。本書はフィールドワークを通じて著者が出会った事例やエピソードに対してきわめてたくみに位置づけを与え、そこから、抽象的な社会学理論などとはまったく異なる、肉付けされた厚みのある議論を展開していく点はきわめて印象的である。
本書は3部7章構成で、各章の前に導入的なエピソードや議論が短めの章として挟み込まれており、各章の冒頭には章の内容に関連する単語がつけられている。イントロダクションで問題にされるのは、「普遍的なるもの」(the universal)にいかに取り組むのか、という問題である。資本主義のシステムであれ、科学的知識であれ、あるいは人権や発展(開発)のような概念であれ、「普遍的なるもの」は現代の世界においてきわめて中心的な位置を占めており、地域を越える普遍的なる知識が、グローバルな新自由主義レジームを様々な地域に押しつけると同時に、それに抗しようという動きも支える。著者が本書で取り組むのは、以上のようなものとしてglobal connectionsを位置づけ、民族誌的に捉え直すことであり、そのためにローカル、ナショナル、グローバルに展開する知識や制度、協働の間で生じるフリクション(これは後の章でギャップとも呼ばれる)に注目する。報告者にとっては特に、第1章で示される「サルベージ・フロンティア」という概念、第2章で検討される、リージョナル/ナショナル/グローバルのスケール形成の「偶発的な分節化(contingent articulation)」、第5章の後半の「コミュニティ」批判、第6章の環境運動にまつわる寓話の「翻訳」などが興味深かった。
議論においてはインドネシアの森林をめぐる制度史的な問題や、経済学のアプローチとの比較における「資源化」「商品化」プロセスの重要性などが話題になったが、もっとも議論が白熱したのは著者も多用する「コンティンジェンシー」というものの向こう側である。従来、自然科学であれ社会科学であれ、偶然や状況依存性、あるいは現象の複雑さのようなものは解明すべき出発点であり、結論ではなかった。しかし近年、こうした概念が積極的に評価されるようになっている。これは学問の限界ではないのか。この先にはどのようなことが可能なのか。さらにこうした概念を多用するようになっている現代の人類学にはどのような未来がありうるのか、という問題まで含めて、様々な意見が交わされた。
(木村周平)
[tag: イニシアティブ4 環境・制度・STS・人類学に関する勉強会]
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