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「現代湾岸諸国におけるグローバル化と政治・経済体制」[G-COE/KIAS ワークショップ] (イニシアティブ1 研究会)

活動の記録>>

日 時:2009年9月26日(土)10:30-18:00 
場 所:京都大学本部構内総合研究2号館(旧工学部4号館)4階会議室(AA447 号室)

http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/access/campus/map6r_y.htm
http://www.asafas.kyoto-u.ac.jp/kias/contents/tariqa_ws/access_map.pdf
などをご参照ください。

【プログラム】
10:30 開会の辞 小杉泰
10:40~11:25 保坂修司「日本と湾岸地域」
11:25~12:10 大野元裕「アラブ首長国連邦における部族的紐帯の今日的意味
~90年代のアブ・ダビ首長国を中心に~」
12:10~13:30 昼食
13:30~14:15 堀拔功二「労働力自国民化をめぐる政治経済論争――アラブ首長国
連邦におけるエミラティゼーションの30年」
14:15~15:00 松尾昌樹「湾岸アラブ諸国におけるエスノクラシー体制」
15:00~15:10 コーヒーブレイク
15:10~15:55 平松亜衣子「クウェートにおける議会政治とイスラーム復興運動
――女性の政治参加を焦点として――」
15:55~16:40 萩原淳「サウディアラビアにおける近代化と伝統的価値」
16:40~16:50 コーヒーブレイク
16:50~18:00 総合討論(ディスカッサント:長沢栄治(東京大学))

【趣旨】
1. 保坂修司 「日本と湾岸地域」
本報告は、日本と湾岸地域の関係について、近代化以前の湾岸地域において主要な産業であった真珠産業との関係や、近年の経済的・文化的交流の展開から検討するものである。従来、湾岸地域の社会経済的な変容の原因とされる天然真珠産業の衰退に関しては、日本の養殖真珠の伸張を原因とする議論が主流であった。しかし、養殖真珠の成功は二次的であったと、諸史・資料から明らかにしたうえで、大恐慌による世界的な経済活動の低下や、石油の発見など複合的な経済構造の変化を実証的に明らかにする。また、日本と湾岸地域は戦前から文化的な交流があり、今日では衛星放送やインターネットを通じ、日本の現代文化が受容・消費されている。とくに、若い世代の日本文化への関心は高く、今後の新しい関係発展が期待される。
 

2. 大野元裕 「アラブ首長国連邦における部族的紐帯の今日的意味―90年代のアブ・ダビ首長国を中心に―」
本報告は、アラブ世界を論じる上で重要な論点の一つである部族について、UAEのアブ・ダビ首長国を例にその意義を問い直すものである。はじめに、アラブ世界における伝統的な部族概念について論じた。その上で、出版物の分析やインタビューを元に、1971年の独立以降の状況を分析し、首長国における部族について以下の四点を指摘する。すなわち、(1)部族的な色彩の残存、(2)政治経済的結びつきの、部族的紐帯に対する優越の発生、(3)産業別部族構成への、部族的紐帯と政治経済的結びつきの二つの論理の反映、(4)首長家の力の増大、である。
 

3. 堀拔功二 「労働力自国民化をめぐる政治経済論争――アラブ首長国連邦におけるエミラティゼーションの30年」
本報告は、今日のアラブ首長国連邦における労働力自国民化について、従来の議論を「政治経済論争」として捉え直すことにより、その背後にある対立軸を示すものである。 UAEは現在、外国人労働者が全人口の87.5%(2009年)を占めている。外国人労働者の存在は、UAEの経済的発展にとって不可欠な存在である一方で、国民アイデンティティの観点からは問題となるなど、極めて重要な焦点である。さらに、自国民労働者の人的資源育成は過去30年間、繰り返し主張され続けてきたが、その問題も解決されていない。本報告では、1970年代から現在までのおよそ30年間を対象に、自国民と外国人労働者の関係を主軸として、これまで展開されてきた政治経済的な議論の要点を整理し、政府と経済界の対立、国内政治における対立、政府と自国民労働者の対立として捉えなおし、エミラティゼーションが進展しない原因を探る。
 

4. 松尾昌樹 「湾岸アラブ諸国におけるエスノクラシー体制」
本報告は、湾岸政治の分析にエスノクラシー論を援用して、その含意と湾岸における国家分析のための理論的枠組みを検討するものである。エスノクラシーとは、資源の配分がエスニック集団ごとに差別的に行われる支配の形態である。湾岸諸国では特に国籍の有無に基づく差別が問題となる。すなわち、湾岸諸国の労働市場は、資本家である支配者が上層を、自国民である公務員が中間層を、国籍のない移民が下層の民間部門を、それぞれ構成するピラミッド型になっており、ボナチッチが論じた「分割労働市場」に擬することができる。 この分割労働市場論によりながら、湾岸エスノクラシーの将来を論じる。第一に、公的部門の雇用が自国民の労働人口の増加を吸収し続けられる場合であり、クウェイト・カタル・UAEが相当する。この時、エスノクラシー体制は安定して維持される。第二は、人口や財政の制約から公的部門の雇用吸収能力が十分にない場合であり、オマーンやバハレーンが相当する。この時、民間部門で自国民と移民の競合が生じるが、民間部門では賃金や能力の面から移民労働力が優位に立つので、自国民労働力と移民労働力の地位が逆転して、エスノクラシーが不安定になる。
 

5. 平松亜衣子 「クウェートにおける議会政治とイスラーム復興運動――女性の政治参加を焦点として――」
本報告は、2008年と2009年に行われたクウェート国民議会選挙の分析である。ここでは、選挙制度の改正が選挙結果にどのように反映されたのかという点と、クウェート国民議会における政治組織の実態に焦点を絞って分析を行う。選挙制度、特に選挙区の改正による変化に関しては、第一に部族系議員の当選が有利になったこと、第二にイスラーム主義組織は、部族との連携が当選には必要なこと、第三に政府主導から議会主導の選挙へ移行した点から分析する。また、政治組織の実態については、部族やイスラーム主義組織を母体にして政治組織となっていること、リベラル派は政治組織として凝集性が高くないということ指摘する。
 

6. 萩原淳 「サウディアラビアにおける近代化と伝統的価値」本報告は、サウディアラビアにおける近代化と伝統的価値の関係について議論するものである。伝統的価値に基づく社会生活が急激に進む近代化に対し、どのように対応しているか、あるいはどのような摩擦が生じているかについて考察する。はじめに、サウディアラビアの伝統的価値というのは、部族的な伝統とワッハーブ派のイスラーム的価値観という二つの要素が未区分のまま認識されている。そして、西洋化抜きの近代化を謳っての近代化のために、そのような伝統的価値が、近代化した社会生活を規制していると考えられると結論づけることができる。また、インターネットや衛星放送の影響によるサウディアラビアにおける若者の伝統的価値観の希薄化が、今後の社会的問題となる可能性を指摘する。
 

【活動の記録】
本ワークショップは、日本において初めて開催された大規模な湾岸研究の交流事業となった。これまで、日本国内において湾岸諸国は、石油など天然資源の重要な供給源として認識されつつも、学術的にはあまり注意が向けられてこなかった。しかし、近年では若手研究者が登場し、研究全体が大いに盛り上がってきたという背景がある。個別の報告については発表要旨に譲るとし、ここではワークショップの最後に設けられた総合討論を中心に報告する。ディスカッサントとして長沢栄治氏(東京大学)をお招きし、6名の報告がまとめられた。前半に討議者が、自らの役割は「湾岸研究をアラブ・中東・イスラーム地域研究の中に位置づける」ことだとして、各発表を大きく二つに分けて「部族と政治」と「労働市場と国民統合」という論点を抽出した。前者については、部族は湾岸研究の主題として依然重要であること、植民地支配や国家形成にまで遡って研究する必要があること、生活空間の変容に伴って部族的紐帯が変化していること、などが指摘された。また後者については、湾岸諸国の自国民から外国人排斥の声が出てこない不思議さや、国民がグローバル化に適応できる層とできない層に分断される可能性、などが挙げられた。 後半の全体討論では、これらの論点に対する反応や、関連するフィールドでの経験の紹介が、フロアから活発に挙がった。グローバル化、部族的価値、国民国家の関係をどう捉えるかは論者によって異なる。それにも関わらず、成立して40年近くを生き延びてきた湾岸諸国の頑健さと、研究対象として看過できない重要性は共有されており、湾岸研究の蓄積を示す本ワークショップの意義が確認された。


(文責 吉川 洋)