日 時:2009年10月30日(金) 15:30~
場 所:東南アジア研究所 稲盛財団記念館3F 中会議室
(京都市左京区吉田下阿達町 46川端通り荒神橋東詰め)
テーマ内容:
タンザニアでは、とくに1980年代の構造調整政策の導入によって市場経済化が進み、農村の人々をとりまく社会経済環境も大きく変化してきた。農村に生活する彼らは、個々の生計あるいは農村全体を維持していくために、一方では既存の慣習を維持しつつ、他方ではそれらの慣習を柔軟に変化させて対応してきている。今回の研究会では、このように変容しつづけているタンザニアの農村における土地利用と労働力確保に関する二つの報告を通し、事例地で観察される農業の現状とその背景にある慣習との関係について発表し、社会経済の変化に応じて地域の慣習がどのように変化あるいは維持されているのかを考察するための話題を提供する。
【話題1】
「タンザニアの山地農村における土地利用とクランを中心とする土地保有との関係について」
山根裕子(名古屋大学農学国際教育教育協力研究センター)
タンザニアの南北のほぼ中央、海岸部の大都市ダルエスサラームから約200km内陸にウルグル山塊と呼ばれる山がある。南北約55km、東西約30kmにわたって展開する山の全域にはルグルと呼ばれるエスニックグループの人々が約300年ほど前から斜面の農業を営みながら暮らしてきた。この山の東側標高600~1300mに展開するキボグワ村にはシナモンやチョウジ、パンの木などの樹木作物から成る叢林的景観が発達した屋敷地がいくつも見られる。一方で、屋敷地の外側に広がる斜面の畑には単年生の主食用作物の栽培がおこなわれており、屋敷地と斜面の畑とでは植えられる作物が大きく異なっていた。本発表では、このような土地の利用の違いがこの村で暮らすルグルの人々のどのような社会文化的背景から生み出されているのかを、母方のクランを軸とする土地の保有の実態との関連を中心に説明したいと考えている。そして、市場経済の浸透が進み変容し続けている現在のタンザニアの農村においてのクランの実態とその意味をこの村の事例を元に考察してみたいと考えている。
【話題2】
「タンザニア農村における労働慣行の変容と農家の生計戦略」
一條洋子(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)
タンザニアのほぼ中央に位置するドドマ州のドドマ・ルーラル県は半乾燥地域であり、農業生産性は低く、経済水準の低い地域である。この地域の農業では、降雨に合わせた適期の耕起作業や、迅速な除草作業および収穫作業が求められ、往々にして家族労働力ではまかないきれない労働力を外部から確保する必要が生じる。こうした一時的な労働力需要の高まりに対し、かつては「労働交換」が広く採用されていた。労働交換は、現金を持たない小農が相互に家族労働を提供しあう慣行である。他の途上国農村と同様に、事例地においても労働交換は人々が農業を営み生計を維持するために重要な役割を担ってきた。ところが近年では、とくに現金需要の高まりから働き手の“労働交換離れ”が進み、外部労働力確保の手段は賃金雇用に置き換えられる傾向にある。しかしどの農家も一様に賃金雇用によって外部労働力を確保できるわけではない。本報告では、労働交換が衰退していく事例地において、個別農家が生計戦略として労働力調達方法をどのように選択しているのか、またその労働力をどのように利用しているのかについて、文化的背景を考慮しつつ明らかにする。
(会の後に懇親会を予定しております。)