日 時:2009年12月2日(水)13:30~15:00
会 場:東南アジア研究所 共同棟4階 セミナー室
報告者:
浜元聡子(東南アジア研究所)
題目:
「マカッサルの安産儀礼と出産の近代化」
【要旨】
伝統的なブギス‐マカッサルの社会では、妊娠7カ月目(日本式の計算では8か月)に達した際に、パッシリPa'siri という呼ばれる安産儀礼がおこなわれる。いずれは妊婦の出産を手伝い、新生児を取り上げることになる産婆がこの儀礼を司り、儀礼の本番と前後一日の合計3日間にわたり、妊婦の安産を祈願する儀礼と母体の健康を確認するためのマッサージなどをおこなう。儀礼の参加者はすべて女性であり、親族および隣人などが大勢集まる。安産儀礼に限らず、ブギス‐マカッサル社会のほぼすべての人生儀礼の際に準備される所定の儀礼用の菓子、黒い羽根のニワトリ、決まった種類の果物、ソンコ・バッラと呼ばれるコメ・バナナ・ヤシ砂糖を組み合わせた供物が準備され、にぎやかに執り行われる安産儀礼は、生まれてくる子どもを地域社会全体が待ち望んでいること、出産の際にはみなが協力し合うことを確認する機会でもある。
近年では、伝統的な産婆に対する近代医学の立場からの衛生指導がおこなわれるようになり、一時的に停滞していた産婆が取り上げる出産の事例が、漸増傾向にある。
南スラウェシ州バランロンポ島では、近代医療設備を調えた総合地域保健所が開設されて以来、近代医療分野の看護婦と産婆が連携して妊婦の健康管理に取り組むようになった。日本から紹介された母子手帳の普及とともに、地域社会における出産事情もまた変化しつつある。このような状況を、バランロンポ島でおこなわれたある安産儀礼を事例としながら紹介する。