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「地域紛争と環境問題:ナイジェリア産油地域で起きていること」 (イニシアティブ4 研究会)

【活動の記録】

日 時:2010年4月19日(月) 13:30~15:00
場 所:京都大学 東南アジア研究所 稲盛記念館3F小会議室
http://www.cseas.kyoto-u.ac.jp/about/access_ja.html

報告者:島田周平(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 教授)
話題:「地域紛争と環境問題:ナイジェリア産油地域で起きていること」

コメンテーター
1)佐藤史郎(東南アジア研究所GCOE特定研究員)
2)佐川徹(日本学術振興会特別研究員PD)

【活動の記録】
地域社会における紛争は、地域の生存基盤にとって深刻な脅威である。本研究会では島田周平氏が、国家や多国籍企業による石油開発のもとに紛争がおきている ナイジェリアのニジェールデルタ地域をとりあげ、紛争の要因について幅広い観点から分析をおこなった。

第1の要因は、民族間関係の歴史である。石油を産出するニジェールデルタ地域での紛争は1990年代以降、大衆運動や暴力行為の多発にみられるよう に過激化の過程をたどってきたが、島田氏はその一因を同国の民族関係の歴史的展開にもとめている。独立以前、「少数派でありつつも、大民族を支配する奴隷 貿易の担い手」だった同地域の住民は、独立後の政権や貿易構造の変革なかで「国家財政の支柱となった石油産出地域(=ニジェールデルタ地域)に暮らしなが らも、政治経済的なマイノリティ」へと立場をかえていった。こうした過去の対立的民族間関係が近年の石油開発と交錯し、紛争の根幹の一部をなしているとい う。

第2の要因は、石油開発にかかわる多国籍企業と住民とのネガティブな関係性についてである。同地域の生態環境は海域、汽水域、淡水域を含み、多彩な 漁労や農業のほか、水網を利用した交易業も盛んであった。だが石油開発はそうした生活の場を大きく撹乱し、住民は不満を蓄積させ、国内・国外にむけた訴訟 や石油生産施設の占拠といった運動を展開するようになっている。他方、企業は住民に奨学金や雇用機会を提供する一方で、地元の政治家や有力者を取り込ん で、操業の維持を図ってきた。

第3は、連邦政府と住民とのネガティブな関係性である。連邦政府は、地域住民の不満を和らげるために産油地域への地方交付金の配分比率を引き上げた ものの、多くの住民はさらに多くの配分を望んでいる。結果、住民は政治経済的な疎外感を募らせ、石油施設の破壊や運営妨害、従業員の誘拐・殺害といった暴 力行為を展開した。連邦政府はこれに対して軍事力を用いて応戦し、紛争は過激度を増大させるにいたった。

第4は、近隣国における紛争との関連性についてである。紛争はナイジェリアの近隣国でもおきている/いたが、その民主化や市場経済化にともない、武 器がナイジェリアへと流入するようになった。同時に、連邦政府による多国籍企業の保護政策が継続・強化されたことによって住民の反発が増大し、地方有力者 の私兵組織や若者武装集団が増加した。以上のように、ニジェールデルタ地域の紛争過程は、石油開発と環境破壊を近接要因として展開しているようにみえる が、その展開は民族間関係の歴史や、多国籍企業、連邦政府、近隣国の振る舞いといった多彩な要因の複雑な絡み合いによって方向付けられている。

この報告に対し、コメンテーターからは以下のような意見が提出された。まず、佐藤氏は、若手集団の武装化に注目すると、この紛争は資源やテリトリー をめぐる利害関係、あるいはアイデンティティといった価値に根ざした争いであるというよりも、暴力行為そのものが目的化しているようにみえると述べた。次 に、佐川氏は、住民の武装組織の名前や、デルタにおける生態条件の不確定性の高さに由来した生活単位の小規模性に注目し、住民がもつ紛争に対するイデオロ ギーの統一性は薄いと述べた。フロントからも数多くの意見がよせられた。そのなかでとくに印象的に残ったのは、ニジェールデルタ地域は植民地期から外部社 会との交渉を志向するという地域性をもち、よって彼らが今抱えている不満は、グローバルな環境と自らとの関係構築の抑圧に由来するという、田辺明夫氏の意 見である。内発的な地域発展の経路を見出す術を問うたこの質問に対し、島田氏は、伝統的な生業や制度を見直すとともに、実現可能な小さなことを地道に積み 重ねることが重要だと述べた。
 

 

(文責 平井將公)