日 時:2010年5月17日(月) 16:00 ~ 18:00
場 所:京都大学東南アジア研究所 稲盛財団記念館3階大会議室
http://www.cseas.kyoto-u.ac.
評者:
谷誠(京都大学大学院農学研究科)
森林水文学、地域環境科学。森林における水循環と地域環境との関係を、葉、単木、群落、斜面、小流域、山岳といった様々な空間的スケールにおいて解明する研究に取り組む。論文に、「水の循環における森林の役割」(太田誠一編『森林の再発見』京都大学学術出版会、2007年、133-183頁)など。
池谷和信(国立民族学博物館)
文化人類学、人文地理学。熱帯の狩猟採集文化に加えて、家畜飼育文化の変容に関する比較研究、地球環境史の構築に関する研究といった、幅広い研究テーマに取り組む。編著書に、『地球環境史からの問い-ヒトと自然の共生とは何か』(岩波書店、2009 年)など。
【活動の記録】
谷氏より、本書は比較対立軸を設定し、もうひとつの社会のあり方を分析する論考(第1,2,3,13章)、また現代の危機から脱するための模索(第 10,12章)、人間の自然への依存性の再認識(第4,5,6,7章)といった興味深い内容からなると述べた上で、次の指摘があった。第一に、資源を提供 し、環境を保全する生命圏のホメオタシスを解明するために、流域生態系の物質循環研究が、もっと全面にでる必要がある。第二に、歴史の一回性という問題 は、現代の社会に対して有効なオルタナティブを提示することを困難にしている。しかし2050年に想定される人間社会は厳しく、民主主義的な長期計画とい う、人類が未経験の問題に取り組む必要がある。池谷氏より、本書はアジア熱帯地域を中心にして生存基盤の多様なかたちを歴史的・地域的に提示することか ら、温帯中心の学問のあり方を批判検討して、21世紀における持続的な生存基盤を学際的に構築する試みであり、その進展を期待していると述べた上で、次の 指摘があった。第一に、国内外において数多くの類似の研究テーマが遂行されているが、その中での本書の位置づけを明確にする必要がある。第二に、熱帯とい う概念は農学や生態学、医学といった異なる研究分野で意味が異なる場合があり、じゅうぶんな検討を要する。また、学際的な統合と地域比較を一層推し進める 必要がある。たとえば第4章で示されている森林伐採と水循環の問題、感慨と都市化の問題については、他の章でももっと検討されてよい問題である。加えて、 地域を越えた比較の枠組みづくりを推し進める必要がある。牧畜を含めた生業の問題、グローバル化の問題などは、アジアとアフリカに共通するところも多い問 題である。これに対して、編著者より次のような応答があった。杉原氏は、本書はパラダイムシフトつまり分析枠組みのシフトを目指している点で新しい試みで あり、その点はお認め頂けたと思うと述べた。また河野氏は、次のように述べた。GCOEでは、これまでの地域研究とは違う方向性、つまり地域の特性を追求 するというより、例えば熱帯というような大きな枠組みにおいて、これまでの視座を鍛え直したいと考えている。また長期的な計画への関与という問題について は、自然科学においても重要な問題であると思う。川井氏は、本書は幅広い内容を扱うものであり、確かに未整理の問題も残されているが、人間圏を中心におい てそこから生命圏、地球圏を見るという視点は一貫したものであると述べた。田辺氏は、本書はすべての地域を網羅し比較するようなものではないが、温帯から 熱帯へ、生存から生産へという視点では一貫した内容となるよう努力してきたと述べた。
(文責 西 真如)