日 時:2010年6月11日(金) 16:00~
場 所:京都大学東南アジア研究所
稲盛財団記念館 2階214号室(地域研究統合情報センターセミナー室)
*会場が通常と異なります、ご注意ください*
題目: 『換金作物栽培とアフリカ狩猟採集社会の可塑性、および狩猟採集民=農耕民関係の変容:
カメルーン東部州におけるバカ・ピグミーとバクウェレの事例から』
発表者: 大石高典(京都大学こころの未来研究センター・特定研究員)
【発表要旨】
換金作物栽培は、財を生み出す営為であるという点において、自給作物栽培とは決定的に異なる性格をもつ。これまで、アフリカ狩猟採集民社会は徹底した平等主義社会であると記述・分析されてきた。そこでは、コミュニティ成員の間で分配しにくい所有物や富の発生は徹底的に嫌悪され、回避されるとされてきた。しかし、そのような社会が農耕化し、農作物の自給を経て、換金作物栽培が開始された場合に何が起こるだろうか。誰の目にも明らかな財の発生やそれを生み出す土地の資源化が進めば、これまでの所有や分配の規範は変容してしまうのか、あるいは新しい状況に対応した仕組みや行動によって維持されるのか。
カメルーン東南部では、フランスによる植民地時代に野生ゴム採集を経て、換金作物としてカカオが導入された。その後、ピグミー系狩猟採集民バカ人を含む様々な民族集団によってカカオ栽培は受容され、次第にまとまった現金収入を得るほぼ唯一の手段となっていった。カカオ買取価格の高騰が起こると、集落周辺の土地利用に急激な改変が起こった。例えば、ブンバ・ンゴコ県モルンドゥ市の近くの調査村は、1960年以降に形成されたバクエレ人とバカ人約550人の集落だが、今日では集落周辺約5キロ四方に130を超える数の合計面積230ha以上に及ぶカカオ園を確認できる。これらのほとんどは、バカ人、バクエレ人といった先住諸民族によって開かれたものだが、近年その所有権や利用権をめぐる対立や紛争が絶えない。その理由の一つは、1980 年代の熱帯林木材伐採事業に伴って移住・定着した商業農民による土地やカカオ園の買収である。発表者は、カカオ園の土地利用歴、賃貸・売買契約、放棄事例の悉皆調査を聞き取りとGPSを併用した現地踏査により行い、プランテーション群の形成過程と所有・利用権の動態、世代間相続の状況などを調べた。その結果、多くの先住民にとって、カカオ栽培に投資した労働に見合うだけの現金収入を得ることはおろか、プランテーションの世代間継承も困難な状況にあることが分かった。なぜ、自分たちで開いたプランテーションを維持できなくなってしまうのか。外部資本の介入やアルコール飲料への依存といった他の狩猟採集民においても報告されている要因のほか、カカオ園が生み出す富をめぐる個人主義的振る舞いの発生と放任といった問題が看取された。事例に基づき、狩猟採集民社会における財をめぐる個人主義と平等主義の相克について考察するとともに、変わりつつある狩猟採集民―農耕民関係について報告する。
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