日 時:2010年7月7日(水) 15:00~17:00
場 所:京都大学東南アジア研究所稲盛財団記念館 3階小会議室(I)
http://www.cseas.kyoto-u.ac.jp/about/access_ja.html
話題提供者:谷 誠(京都大学 農学研究科 森林水文学分野 教授)
タイトル:
山地河川の水流出量に対する森林利用の影響はどのように評価すべきなのか?
要旨:
大陸規模の平地天然林の破壊や化石燃料枯渇に付随するバイオマス活用が
進む中、日本のような地殻変動帯の浸食されやすい急斜面上の森林利用も
避けられない。そこでは、皆伐や間伐直後の河川流出水の変化を調べるだけ
では不十分で、急斜面上の基岩・土壌・植生システム全体がどのように流出
に寄与していて、人為によりどのように影響を受けるかを包括的に予測する
必要がある。しかし、森林伐採直後の渓流流出量の変化を調べるのに比べて、
基岩・土壌・植生のどの部分が人為によってどのように変化し、水流出過程
をどの程度変えてゆくのかを評価することは容易ではない。本研究では、
自然条件・人為利用経歴の異なる7つの小流域の流出長期観測結果を基に、
降雨などの気象条件をそろえたシミュレーションを行うことと、流出メカニ
ズムを検討することから、この課題に対して検討を行った。その結果、
花崗岩山地は、未熟砂質土壌・森林土壌のいずれの場合も透水性の風化基岩
によって流出が安定しているが、人為利用ははげ山荒廃を招きやすいこと、
中古生層山地は、風化基岩の役割が乏しく流出変動が大きいが、緩和機能を
果たす森林土壌を人為利用によって失うと変動が極端に拡大することが推測
された。山体隆起・風化進行・豪雨という日本の自然環境において、土壌は
生態系のホメオスタシスによって支えられている(根が張らなければ風化物
は基岩上に維持できない)。本研究は、人為利用がホメオスタシスの閾値
を超えた場合に水流出も激変し、越えないように森林を利用すべきである
ことを、具体的に示唆したものと考えている。
主催:GCOEイニシアティブ2班
連絡先:藤田素子