【書籍紹介】 非接触エネルギー伝送は古くて新しい技術であり,1831年のファラデーによる電磁誘導則にさかのぼる。また,我々の世代には懐かしい鉱石ラジオも,電波から駆動エネルギーを調達する非接触エネルギー伝送のはしりであるともいえる。積極的な提案としては1968年,P.グレイザーによる「Power from the Sun」(現在のSpace Solar Power Systems:SSPS)が最初であろう。これは太陽電池を積んだ静止衛星によって百万kW級の電力を生み出し,それをマイクロ波で地上に送電しようとする壮大な計画であった。
電磁誘導方式では,ICカードFelicaがソニーから出されたのが1995年,その後,非接触充電技術として2001年の松下電工による電気カミソリを始め,コードレス電話,電動歯ブラシなど様々な実用品が生まれている。電波方式ではいわゆる無線タグが2003年,米国で登場し,日立が開発したμチップに発展している。さらに近年,興味深い新しい伝送方式がいくつか提案され,研究面でも活況を呈してきている。
SSPS以外はいわゆる小電力のエネルギー伝送であり,それゆえ効率はさほど問題にならなかった。すなわち,電圧に比べ,電流値はミリアンペア級の伝送でまかなえたからである。しかしこのことが,「電磁誘導方式は低効率」,という「常識」を生んだのではないだろうか。そのためか,2007年にMITから磁界共鳴方式が登場し,2メートルの距離を効率40%で60ワットの電力伝送に成功した,というニュースが衝撃をもって伝えられたのである。
折しもエネルギー問題が耳目を集め,電気自動車の市場投入機運が高まるタイミングからにわかに非接触電力伝送技術に対する関心が高まりをみせてきた感がある。小電力分野においても携帯機器への充電技術として内外の企業が相次いでこの分野に参入し,大きな市場に立ち上がっていく機運が見られる。このような時期に非接触電力伝送技術の原理から応用までを含む本書が発刊されることは時宜を得たものである。諸般の事情ですべての分野について網羅することはできていない点はあるものの,本書がこの分野に関心を持たれる関係諸氏の一助となれば幸いである。
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