日 時:2010年10月15日(金) 16:00~
場 所:京都大学東南アジア研究所 稲盛財団記念館3階 中会議室
*会場が通常と異なります、ご注意ください*
題目: 『インドネシア・リアウ諸島州におけるマングローブ林生態系の地域利用と保全
―移動性小規模製炭業従事者に注目して―』
発表者: 原田 ゆかり (京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)
【発表要旨】
東南アジアでは1980年代にエビの集約養殖池が広がり, 2000年にはインドネシアにおけるマングローブ林生態系の減少率は,1980年に比べて31%となった(村井 2007)。その主要因としては, 物流の仕組みの近代化や海外資本の流入による産業用地としての開発や,農用地・塩田・養殖池への土地利用転換が挙げられる。現在, マングローブ林生態系の減少・劣化によって, マングローブ林生態系の持つ,熱帯・亜熱帯地域の沿岸部の保護, 水産資源の涵養などの機能が衰退し, 津波被害や漁獲高の低下など,地域住民の生活を脅かしている。上記のような国外経済の影響を大きく受けている, インドネシア・リアウ諸島州バタム島において,地域住民のマングローブ林生態系利用, 国外経済の影響, マングローブ林の状態の関係性を明らかにし,沿岸域に暮らす人々の生存基盤の回復を伴う利用とマングローブ林生態系保全の両立について考察した。
各官庁の公文書, 統計資料からリアウ諸島州およびバタム島の特徴を調べると共に, 漁業, 物流業, 観光業, 製炭業など,住民の主な業種が異なる4つの村集落において, マングローブ林生態系の利用に関する聞き取り調査を行い,またマングローブ林生態系利用の異なる場所, 都市部に近接した森林, ツーリズムに利用されている森林,薪炭材伐採が行われている森林において森林構造調査を行った。結果,以下の3つの現状が明らかになった。
1) 地域や業種によってマングローブ林生態系利用方法における,
直接利用(薪炭材利用)と間接利用(水産資源涵養・景観利用)の割合は異なった。
2) バタム島は物流ハブ港として工業発展を遂げたため,エビ養殖などの土地利用の転換が行われなかったことも,
マングローブ林の二次再生を促す大きな一因であると考えられた。
3) マングローブ木炭は主に輸出用であった。製炭用の伐採は択伐・小面積皆伐であり,森林再生の可能なサイクルで伐採が行われていた。
以上の調査から, 現代の地域社会における現状の一例と共に, マングローブ林生態系の利用と保全の両立の一例を観察出来た。
囲い込みによる完全な人間利用の排除だけが, マングローブ林生態系の保全方法ではない。地域住民のマングローブ林生態系利用と,その保全・再生をどのようにして両立させていくかを考えることが, 最も現実的で実現可能なマングローブ林生態系の保全へと繋がると考えた。
現在筆者が最も注目しているのは、調査地の1つである移動性製炭集落である。上述したように、バタム島は急激に発展の進む島であり、諸外国による工業団地が存在し、生活水準も高い。彼らが作るマングローブ木炭は、大部分が国外向けの換金商品であり、収入は多い。しかしその生活は電気も水道もなく、薪炭以外の物を全て集落外から得ている。インドネシアにおいて、マングローブ林の伐採は違法である。しかし彼らは「これは我々の伝統的な生業である」と主張し、違法性を認識しつつも伐採を依然として続けている。失業者が増加するため、政府も完全に伐採を禁じることが出来ない。バタム島内には、先進国的なものと途上国的なものが混在しているようにも感じられ、興味は尽きない。
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