日時:11月22日(月)13:00~15:00
場所:地域研究統合情報センター2階セミナー室(稲盛財団記念館2階213号室)
発表者①:小島敬裕(京都大学地域研究統合情報センター研究員)
題目:「中国・ミャンマー国境地域の仏教実践と宗教政策-徳宏タイ族の事例から」
(発表25分+質疑応答35分)
発表要旨:
東南アジアの大陸部諸国を中心とする地域において、上座仏教は政治権力と深く関わりながら実践されている。中でも現代に到るまで王室を保持するタイの政 治権力と上座仏教の関係については、多くの先行研究が蓄積されてきた。しかし植民地化、社会主義化を経験した諸国を対象とする研究は、冷戦時代に調査が困 難となったこともあり、緒についたばかりである。特に中国雲南省の上座仏教については、政策に関する研究がわずかにとどまるばかりでなく、政策と地域の実 践の関係についても明らかにされていない部分が多い。
そこで本研究ではまず、雲南省徳宏州の事例を中心とし、国家による宗教管理体制の実態ついて、政府内部資料や関係者への聴き取りによって明らかにする。 特に宗教実践を観光開発に利用する近年の試みや、国境管理の強化によって中緬両国の自由な宗教的交流が妨げられつつある事例について報告する。またその一 方で、僧侶や在家信者による国境を越えたローカルな実践を構築する動きも見られることを、フィールド調査で得られた知見によって示す。
(東南アジア学会研究大会での発表予行)
発表者②:加藤眞理子(地域研究統合情報センター研究員)
(発表40分+質疑応答20分)
題目:「東北タイのレー説法―声の仏教文化研究に向けて―」
発表要旨:
本発表では、東北タイで人気のあるレー説法を取り上げ、声の仏教文化の現代における意味を探る。レー説法は、抑揚の大きい節を持つ僧侶の説法のことであ り、仏教の伝播とともに説法形式も伝わったとされるが、地域の民族文化と融合した結果、多様な様相を見せている。また近年、メディアの発展によって、デジ タル録音・録画され広く配布・市販されるようになった。
タイでは、近代教育とならんで標準化された仏教が、20世紀初頭より始まった国民統合の過程で重要な役割を果たしていた。僧侶による説法は、国家イデオ ロギーを地方に浸透させる重要な方法の一つであり、特に謡いのような節を持つレー説法は、国家と民衆をつなぐ媒体として国民統合に大きな影響を与えていた と推測される。その後、グローバル化が進むなか、1980年代以降、地元の文化の掘り起しや復興が行われるようになり、レー説法も継承・復興すべき伝統と して着目されるようになった。
本発表では、市販のVCDおよび現地で録画したビデオを見ながら、レー説法をめぐる僧侶と在家信者の関係、グローバル化の影響、近年のメディアのデジタル化などの観点から考察を行い、在家信者の仏教実践における声の文化の重要性を指摘する。