日 時:2010年11月15日(月) 11月12日(金) 16:00 16:30~ 18:30
場 所:京都大学東南アジア研究所 稲盛財団記念館3階中会議室 小会議室Ⅱ
■趣旨
最終成果出版に向け、第1巻の構想を討議します。第1巻では、熱帯を中心とした環境・技術・制度の長期的なダイナミズムを俯瞰し、熱帯から見た生存基盤のありようを、世界の歴史と現在の中に位置づけます。
杉原先生には、第1巻の全体構想と第2編、第3編の狙いについて報告を頂きます。第2編では、生存基盤の観点から科学技術の役割を検討するために、経済史、医学、農学、工学の立場からの知見を紹介します。また第3編では、制度とそれを支える思想、価値観の長期的変化を熱帯の側から論じます。
脇村先生には、第1編の構想をお話し頂きます。第1編は、地球環境史のパースペクティブから熱帯の位置を論じる内容で、森林、人口、疫病、水資源といった問題を地球規模で捉えることを通して、熱帯の生存基盤の脆弱性とレジリエンスを描き出します。
峯先生には、第4編の構想をお話し頂きます。第4編は、歴史を踏まえつつ世界の同時代的な課題の中で熱帯の位置を論じます。国際関係と人の移動、土地と労働、ケアの制度と開発といった問題に焦点をあててゆきます。
発表者:
杉原薫(京都大学東南アジア研究所教授)
脇村孝平(大阪市立大学大学院経済学研究科教授)
峯陽一(同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授)
16:30-17:00
報告1:「第1巻の全体構想と第2編、第3編のねらいについて」
杉原薫(京都大学東南アジア研究所教授)
17:00-17:20
報告2:「地球環境史における生存基盤と熱帯」
脇村孝平(大阪市立大学大学院経済学研究科教授)
17:20-17:40
報告3:「熱帯の生存基盤と世界」
峯陽一(同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授)
17:40-18:30
コメントと総合討論
コメンテーター:
柳澤雅之(京都大学地域研究統合情報センター准教授)
水野広祐(京都大学東南アジア研究所教授)
速水洋子(京都大学東南アジア研究所教授)
第1巻の目的(抄):
第1巻は、持続型生存基盤論のベースとなる長期の歴史的パースペクティブを示すとともに、それにもとづく地域社会の生存基盤の新しい理解を提示する。関心の焦点は熱帯地域にあるが、グローバルなパースペクティブや日本、東アジアの経験との対比、歴史学、経済学、政治学、開発研究、医学、農学、工学などとの交錯を意識的に前面に出し、関連分野との対話を目指す。(中略)人間社会の作り出した技術や制度は、つねに環境との「対話」を求められる。実際、人間の作り出した技術や制度は、各地域の環境が要請するニーズやその変化の方向との短期的・長期的な折り合いをつけることを重要な課題としてきた。産業革命以降、資本主義が作り出した市場経済、私的所有権制度、国民国家システにとっても、その世界的普及に際して最大の課題となったのはこの点である。環境への適応の失敗はただちに資本主義の失敗となり、あるいは地域社会のニーズに答えられない政治への没落につながってきた。本巻はそのような歴史意識と危機感を共有しつつ、しかしできるだけ広い視野から、そうした課題への展望を出そうと試みる。
【活動の記録】
今回のパラダイム研究会では、最終成果出版に向け、第1巻の構想を討議した。第1巻では、熱帯を中心とした環境・技術・制度の長期的なダイナミズムを俯瞰し、熱帯から見た生存基盤のありようを、世界の歴史と現在の中に位置づけるものである。まず杉原薫氏より、過日に行われた京大学術出版会との会合の報告があったのち、第1巻の全体構想と第2編、第3編の課題についての報告があった。第1巻では、6巻全体を通じて中心となる以下の4つのキー概念を提示し、議論の礎石をつくるものとされた。4つは、それぞれ、(1)長期の発展径路(時間軸で見たパラダイム)、(2)環境、技術、制度の三つの相互関係、(3)温帯、世界全体との関係で見た熱帯、(4)生存基盤の確保と持続、である。のち、それぞれの概念について、詳細な説明がなされた。その後、脇村孝平氏より、第1編となる「地球環境史における生存基盤と熱帯」に関する報告があった。ここでは、第1編を構成する4つの論文について説明がなされ、特に「湿潤熱帯、半乾燥熱帯、乾燥亜熱帯、亜熱帯」それぞれについて仔細な検討がなされた。最後に、峯陽一氏より、第4編の主テーマとなる「熱帯の生存基盤と世界」に関する報告が行われた。峯氏からは、熱帯生存基盤と現代世界の課題について、特に「土地と人間の安全保障」を事例に報告がなされた。以上の報告を受け、第2巻、第3巻、第4巻の責任編者となる柳澤氏、水野氏、速水氏から、それぞれ、自らの巻と第1巻との関係から、特に6巻本全体のイントロの役を担う第1巻という位置づけから、より深化が求められる議論のポイントに関してコメントがなされた。
(文責 舟橋健太)