日時:1月21日(金)16:00~18:30
場所:地域研究統合情報センター2階セミナー室(稲盛財団記念館2階213号室)
司会:小林知(京都大学CSEAS・助教)
発表者1:王柳蘭 (京都大学CIAS・日本学術振興会RPD)
題目:「民族関係が育む北タイ国境の移民社会―中国系ムスリムをめぐる共生と葛藤」
【発表要旨】
従来、人の移動については同化や統合といった移民の苦悩面ばかりが注目されてきたが、主として1990年代以後のディアスポラ論やトランスナショナリズム論によって、移民の文化的実践は、移住先における文化的創造性や排他的な国民主権に対する抵抗として積極的に意義づけられるようになった。さらにグローバリゼーションの進展によって、移民と地域の問題はこれまで以上に注目を集めている。
発表の冒頭において、移民が積極的に地域に関与し、新たな地域を創出する社会的文化的営為に着眼することによって何がみえるか、について問題提起を行う。
その後、
(1)タイ北部国境における中国系ムスリムをめぐる民族関係の変遷(2)ムスリム移民の多元的ネットワークが生み出す広域地域空間、について調査事例を紹介しつつ、地域の多文化化にともなう葛藤と共生について考える。
発表者2:松本ますみ(敬和学園大学・教授)
題目:「中国西北とイスラーム世界を結ぶ結節点、義烏の移民ムスリムたち」
【発表要旨】
貧困に苦しむ中国西北でにわかに注目されている産業がある。それが、「アラビア語通訳養成業」である。ムスリムが学ぶべき言語アラビア語はそれまでモスク付属のマドラサでほそぼそと教えられてきたが、それがいまは設備の整ったアラビア語語学学校として生まれ変わり、卒業生は義烏や広州などで通訳/貿易商社従業員として働くようになった。西北の農村は彼ら/彼女らの仕送りによっていま潤いはじめている。
「アラビア語」能力によるエンパワーメントである。義烏には世界中からムスリム商人たちが集まり、優秀なアラビア語通訳とともに敬虔なムスリムの商売パートナーを求めている。信仰深さが商売を生み、信頼を生み、ネットワークを生み、財を生み、またあらたなチャンスを呼ぶ現象がここでは起きている。本発表では、「新蕃坊」とよばれる義烏在住の中国ムスリム移民と「新ムスリム」(改宗者)の世界観を考えていくことにする。
単著に『イスラームへの回帰 中国のムスリマたち』(2010年山川出版社)、共著に 'Rationalizing Patriotism Among Muslim Chinese: The Impact of the Middle East on the Yuehua Journal', in Intellectuals in the Modern
Muslim World: Transmission, Transformation and Communication, eds. by Stéphane A. Dudoignon, Komatsu Hisao, and Kosugi Yasushi. (London :Routledge , 2006) などがあります。