日時:3月1日 15:00-17:00
場所:地域研究統合情報センター2階セミナー室(稲盛財団記念館2階213号室)
発表者:風戸真理(京都大学地域研究統合情報センター研究員)
題目:モンゴルにおけるフェルトの「母」:建材用硬質フェルトをめぐる製作技術と社会関係
要旨:モンゴル遊牧民は、畳3枚分サイズの極厚フェルトを木枠に巻き付けた住居「ゲル」に住んでいる。彼らは自分で飼育したヒツジから刈った毛に、水分、摩擦、圧などを加えることで、羊毛に縮絨(しゅくじゅう)という変化を起こしてフェルト化させる。このさい、西洋近代手工芸界におけるフェルト製作技術とは異なる独自の方法が用いられる。私はこの在来技術を、「母」とよばれるフェルトを中心とした、一定の硬度を維持する同規格のフェルトを大量生産する「システム」として捉える。このシステムの特徴は、フェルト製作だけのための道具をほとんど用いず、「母」フェルトと「母」を使ったフェルト作りの知識や技術に依存するところにある。実際の製作現場では、個々人に継承された多様な知識が寄せ集められ、交渉されながら実践され、何枚かのフェルトが完成すると共に、知識が次世代に継承される。社会主義期のモンゴル国では個人のフェルト製作は家内制手工業とみなされて禁止され、工場製のフェルトが普及した。1990年代初頭の国家体制の転換以降、自分の家を自分で作ることを余儀なくされた人びとは今、網の目をくぐって継承されてきた「母」システムを利用して、ゲルの壁用フェルトを作っているのである。