日時:2011年5月31日 16:30-18:30
場所:京都大学地域研究統合情報センターセミナー室(稲盛財団記念館2階213号室)
発表者:小西賢吾(日本学術振興会特別研究員PD、京都大学地域研究統合情報センター)
題目:伝統宗教の復興と存続の場を支えるメカニズム-中国四川省、チベット社会のボン教寺院を事例に
要旨:発表者は、2005年以来中国四川省北西部、シャルコク地方のチベット社会を対象に調査研究を続けてきた。シャルコクにおいて広く信仰されるボン教は、7世紀のチベットへの仏教伝来以前からの伝統の流れをくむとされる宗教であり、教義や僧院組織、修行システムなどにおいてチベット仏教と相互に影響を与えあいながら、その命脈を現在に至るまで保ってきた。20世紀中盤の混乱期を経て、ボン教は中国における他の宗教と同様に、1978年の改革開放政策の導入を契機に復興が始まった。そして2000年代中盤以降の急速な経済成長の中で、活動のさらなる活性化を見せつつある。
本発表では、まず1980年代以降の寺院の復興をとりあげ、建造物の再建から僧侶教育の整備へと至る過程が、単なる過去の再現ではなく現代の状況に対応しながら進められた点、そしてその中で知識の継承が復興の軸として位置づけられている点を論じる。次に近年展開しつつある、僧侶と俗人の協働による大規模な宗教的プロジェクトともいえる仏塔の建設や集団的な修行についてとりあげ、それが広汎な参加者と潤沢な経済基盤によって支えられている点を論じる。
こうした宗教実践の場は、一方で寺院固有の神格や歴史に軸足をおきながら、他方ではシャルコク外部にまたがる寺院や信者のネットワーク、そして中央チベットを経てインドやネパールなどにおいて確立されてきた「正統な」ボン教の枠組みとも接続しながら成立しており、地理的実体としてのシャルコクを越えた場が形成されている。そしてこの場において人びとを結びつける核として、知識、高僧の求心力、実践における身体感覚といった要素を考えていきたい。