人類による自然資源の利用がこれまでと同じようなペースで進めば、特定の資源の枯渇に加え、排出物による地球環境の改変とあわさり、人類の生存基盤に多大な影響をおよぼすことが明らかとなった。自然資源を無くなるまで利用し、いざ無くなれば別の資源を探すというような略奪を前提とした利用ではなく、自然資源の持つ回復力・再生力を最大限に活用した新たな自然資源利用のパラダイムが地域的にも地球的にも求められている。そこで本研究イニシアティブでは、生存圏全体の視点から自然環境を捉え、最先端の科学技術研究を従来の文理融合型の地域研究に統合し、地球レベルの循環の中で人と自然の共生を可能にする新しいしくみについて考える。
本研究イニシアティブで求められるパラダイム転換はさまざまである。まず、自然環境観を人為的な自然環境を前提としたものに変更しつつ、例えば森林とは何か、自然とは何か、といった問いを考えることが重要になる。また自然資源は、これまでのような私的所有権を前提とするものではなく、過去から未来を含む全人類の公共財として捉えなおす必要がある。さらに、人と自然の共生研究の対象となるのは、高度に複雑な人と自然の共生システムの変化のプロセスである。地球上の各地で行われている自然環境や地域社会に関する研究が、どの程度の地理的空間・歴史的変化を対象としているのかは研究によって異なる。世界中に分散して存在するそれらの多様な情報を集約し、絶えず情報の更新をはかりながら未来を推定するような新しい科学的判断が求められる。
このようなパラダイム転換を促すために、本研究では地域社会における人びとの暮らしと地球環境問題との関係性や、自然資源の利用、災害(と共にくらす)、医療・健康などを具体的なテーマとして研究を推進する。そのとき、自然環境の季節的な変動だけでなく数年から数十年にわたる長期の変動や、人為的なものも含めた自然資源の多様性に特に焦点をあてる。地域研究が発掘してきた、変動や多様性を埋め込んだ地域社会の技術や制度、文化の中に、自然資源の持つ回復力・再生力を最大限に活用してきた人びとのさまざまな知恵が凝縮されており、それらを、最先端の科学技術の動向を取り込んだグローバルで長期的な変化の中に位置づけなおすことが新たなパラダイム形成につながると考えるからである。
(イニシアティブ2 リーダー 柳澤雅之)
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