本研究は、生存圏研究所と東南アジア研究所のこれまでの研究の蓄積を踏まえ、同じフィールドで共同研究を進めて実践的な文理融合を行うものである。近年、森林破壊の著しいインドネシアにおいて、産業植林(HTI)は、持続的森林圏の構築のため重要な役割をもつ。パームオイルプランテーションやアカシア林などはその例であるが、後者は度々近隣住民と紛争を起こすだけでなく、逆に森林破壊を助長することもあり、持続的森林圏の構築が望まれてきた。
本研究は、このような産業植林の一例であるインドネシア・スマトラ島のパレンバンにおけるアカシアマンギウム大規模植林地を主として研究対象地とする。これまで生存圏研究所は、アカシア材の高度利用、廃棄物の利用、樹木の育種改良、といったアカシア林の持続的経営に向けての研究や、植林地の大気・気象観測や炭素の循環計測といった生存圏科学におけるグローバルな意義を位置付ける研究を行ってきた。
地域研究からは、「複合化」をキーワードに持続的森林圏を構想する。すなわち、森林の樹木から見た多層性、経営主体から見た多様性、同一経営主体における複合性・多就業を生かし、また、小規模経営のメリットを生かすことにより、産業植林周辺部におけるローカルノレッジにもとづく里山を発展させる。産業植林の内部においても、社会林業などの方策と制度の「複合化」を図る。これらのため、地域住民が森林圏形成による経済的生存基盤を認識し、積極的にガバナンスの主体になってゆく必要がある。
今後、グローバルな地球温暖化問題に対する森林圏・大気圏の変動モデル構築や、熱帯林の炭素・水循環の研究による「モニタリング・診断」、環境調和型の技術開発や森林持続の技術開発を中心とする「開発・治療」の研究を進めることにより、熱帯地域の生存基盤持続のパラダイムを構築する。森林資源再生と地域住民の生存基盤の仕組みに関する「再生・適用・自立」の方法論にガバナンスの視点を導入することにより、地域社会に支えられた「持続的森林圏」の創生を考えてゆきたい。
(イニシアティブ3 リーダー 水野広祐)
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