過去2世紀にわたって、私的所有権制度に基づく資本主義が世界的に普及したことは良く知られている。経済の担い手は、地球上のどこでも、資本・労働・土地を生産の3要素とみなすようになった。そこでは環境・資源は基本的に土地に集約・擬制して捉えられてきた。
しかし、環境的制約の大きい発展途上国において地域社会の人々にどのような現実的オプションが存在し、社会としていかなる優先順位がつけられていたかを理解しようとするなら、土地と労働の生産性の向上への努力だけに焦点を当てることは必ずしも適切ではない。より緊急の課題は、自然環境の変化や災害の脅威に耐えて生活を守ることだったかもしれないからだ。そのなかには、旱魃、水不足、薪炭などのエネルギーの不足、疫病の蔓延といった自然環境そのものに関わるものもあれば、そこから派生した社会不安や戦争のほうが深刻なこともあっただろう。現在のアジア・アフリカにおいても多くの社会がこうした問題関心を持ちつつ発展径路を切り拓こうとしていることは、フィールドワークの現場ではっきりと確認できる。それはまた、ごく数世紀前までの人類の一般的な姿でもあった。
もしわれわれが、地球環境問題やエネルギー問題に、21世紀の熱帯における人口の着実な増加をふまえて対応しようとするなら、私的所有権制度を前提として、効率と成長に焦点を当てるこれまでの見方を相対化し、ローカルな環境の持続性に影響を与える、水や植生のような動きや変化の激しい資源の複雑な相互作用の影響を十分に勘案しうる「生存基盤アプローチ」を創出しなければならない。また、持続型生存基盤をローンカル、リージョナル、グローバルに支えることができる社会制度を形成していかなければならない。
(杉原薫)
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