現在までの研究内容
現在まで、東南アジア、主にタイにおける都市の発展と開発の問題を開発経済学・地域経済学の視点から研究してきた。問題関心の背景には、発展途上地域の爆発的な都市の拡大が、欧米の都市成長を分析してきた従来の理論的枠組みでは捉えきれない様相を示していることと同時に、発展途上国を対象とした初期開発経済学の単線的な近代化・発展論に依拠した都市分析もまた、重層化する都市のダイナミズムを捉えきれていなかったことがある。このような状況を乗り越えるために、地域研究の視角を積極的に取り入れながら、マクロ分析(実証・政策)と長期フィールド調査を用いたミクロな実証研究の二つのレベルから、グローバル化時代の発展途上地域の都市の動態分析、特にインフォーマル経済を対象とした理論的、実証的研究を行っている。
政策分析に関しては、タイにおける都市貧困政策とインフォーマル経済支援政策の登場および変遷を、その政治経済的背景とあわせて分析している。複合的な様相をみせる都市と都市下層民の実態に、支援政策が追いついていない現状が明らかになっている。
実証研究・実態分析は、インフォーマル経済のダイナミズムおよび都市下層民の労働や生活に着目し、動態的な視点から進めている。
マクロな視点からは、経済構造(産業構造・労働市場)や都市空間の再編を各種マクロ統計資料や地図資料などから分析し、都市経済・空間構造に関する実証研究を行っている。ミクロな実証研究では、コミュニティにおける長期実態調査で得られたデータを使用している。1980年代後半以降のグローバルな経済と労働の再編成が、都市下層民の「労働」と「生活」に与えた影響と、それに対する都市下層民の対応を、主に都市下層民の「職業」と「居住」の二側面から分析している。都市下層民の職業や居住の変化が都市のダイナミズムと連動して起こっている事、またそれに伴って、下層民内部の階層分化が促進されていることなどが明らかになっている。
今後の研究について
「21世紀は都市の世紀である」と言われるようになって久しい。国連人口基金の予測によると、1900年には世界の総人口の10分の1程度に過ぎなかった都市人口は、2008年中には、世界人口の半分以上である33億人超に達し、農村人口を超えるとされている。また2030年には、都市人口の約8割は発展途上地域の都市部に集中するとされており、世界の大都市の半数を、アジアの大都市が占めるようになってきている。ところが、アジア地域では、農村研究の膨大な蓄積と比較すると、都市研究は、重要性が指摘されながらも、その多面性ゆえか、圧倒的に蓄積が乏しかった。しかしながら、急速に進展するグローバル化や都市化は、アジア地域のみならず世界全体に多くの課題を突きつけており、今後の世界の持続的な発展パラダイムを考察するにあたり、都市を対象とした研究は避けて通れない重要なテーマである。アジア、特に東南アジアの都市およびインフォーマル経済に関する研究を一層発展させることを通じて、生存基盤確保型の発展経路の歴史と現状、今後の展望に関する実証研究を進め、最終的には、西欧型とは異なったアジアの都市の持続可能な発展のあり方を、他地域との関係をも視野に入れながら、提示していきたいと考える。
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