調査の概要
地域住民による参加型開発計画が立案される際に、その計画の基礎となる地理的な空間情報が当該地域住民と立案者のあいだでほとんど共有されていないという場合が多い。私が経験したエチオピアの現場では、行政側が一方的に作成した地図に地域住民から得た情報を書き写すのが常であった。しかし、近年、住民が培ってきた空間情報に関する知識や認識能力に関心がむけられており、開発援助計画への利用の試みもはじまっている。ところが、地域住民が自ら空間情報を視覚化して活用する手法の開発はなおざりにされてきた。空間情報のように地域開発を実施するうえで重要かつ基本的な情報を、受益者自身が主体的に共有し管理する能力をみにつけることは、住民主体の持続的な発展を考えるうえで欠かせない。そのために、地域住民が日常的に「空間情報」をどのように認識し、使用しているのか、その理解が必要であると考える。
かつて私は、開発実務者として地域住民と行政のあいだで、「空間情報」概念の共通化を推進するための道具だてとして、「参加型立体地形モデル(P3DM)手法」の利用を提案した。Google Earthでは、利用者が自前の空間地理情報を地図に自由に貼り付けることができる。本研究では、エチオピアでのP3DMの利用やリモートセンシングの経験を生かして、Google Earthを活用した最新の空間情報プラットホームをとりいれながら、実践的な地域研究の手法のひとつとして、地域住民による参加型研究を可能にするような空間情報活用のためのインターフェイス開発をおこなう可能性について考察する。特に、エチオピア農村地域において、森林資源の保護や農地・放牧地の確保のためにしばしば問題化される土地利用の現状分析に活用できる手法の提案を試みる。
調査地:エチオピア国、アムハラ州(ゴッジャム州)ビチェナ郡、オロミア州・ドドラ郡、南部諸民族州・南オモ・ゾーン・南アリ郡
調査歴:
- 1989年8月-9月:アムハラ州(ゴッジャム州)ビチェナ郡に渡航し、日本国際ボランティア・センターの食料配給プロジェクトの調査を行う。英国ウェールズ大学スワンジー校に学士論文「エチオピアにおける食料援助が農業生産及び国内食料生産に与える影響について」を提出。
- 2002年3月‐4月にオロミア州・ドドラ郡に渡航し、幾何補正地点、植生参照データーの収集を行う。エジンバラ大学:地球・環境・地理学大学院に、修士論文「GPS実地測量によるLandsat ETMデーターを利用しての植生地図分類と解析:エチオピア国アダバ・ドドラ郡森林での応用」を提出
- 2008年5月-6月に南部諸民族州、南オモ・ゾーン、南アリ郡に渡航し、10日間の現地調査をおこなう
業績
学位論文:
- Hisada,S. 1991,「エチオピアにおける食料援助が農業生産及び国内食料生産に与える影響」英国ウェールズ大学スワンジー校学士論文。
- Hisada,S. 2003, “Land cover mapping from classification and interpretation of LANDSAT-ETM data assisted by GPS ground survey: Application to the forest of Adaba-Dodola region of Ethiopia”-submitted for the degree of Master of Science by Research in Geographical Information Science to the School of Geo-science, University of Edinburgh
エッセイ:
- 久田信一郎、2005、「エチオピア国ベレテ・ゲラ参加型森林管理計画:住民・行政共働の持続可能な森林管理契約モデルの開発」『緑の地球(Vol.15-4)』7-8
口頭発表:
- Neil Stuart・Moss Duncan(エジンバラ大学)・久田信一郎(JICA専門家)、「費用効果の大きいリモートセンシングデータを使った開発途上国における図化の信頼性の向上-エチオピア高原での森林資源の図化を例にして」公開フォーラム「GIS解析: 社会・環境研究への応用」、2003年5月15日、於筑波大学.
- 久田信一郎、「GPS実地測量を活用したランドサット(ETM)衛星画像データの分類と解析による植生図作成:エチオピア国アダバ・ドドラ地域森林への応用」日本ナイル・エチオピア学会第12回学術大会、2003年4月、於土佐市民会館・伊野簡易保険センター.
- 久田信一郎、「地域住民の参加型研究を可能にする空間情報活用のためのインターフェイス開発の試み-エチオピア農村における土地利用の分析のために-」日本ナイル・エチオピア学会第17回学術大会、2008年4月、於弘前大学.
ワークショップ:
- 久田信一郎、「GISとGPSを活用した現地調査手法について」、第1回ミニ・ワークショップ、2007年7月30日~8月3日(5日間)、於京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科(ASAFAS).
シンポジウム・講演:
- 「裸足のマラソン王者」財団法人大村国際交流協会主催『異文化理解講演会「シリーズ多文化共生」』2007年11月18日、於長崎県大村市コミュニティーセンター.
- 「『同時代』の援助を考える~暮らしをつなぐ協働の思想」文化人類学でエチオピアに小学校を作る:京都文教大学人間学部文化人類学科フィールドワーク実習「プロジェクト・ウオプル」5周年記念イベント公開シンポジウム、2007年11月24日、於京都市国際交流館.
学歴
- 1977年3月:長崎県立大村高等学校普通科卒業
- 1988年7月:英国ウェールズ大学スワンジー校英語研修修了(期間1年)
- 1991年7月:英国ウェールズ大学スワンジー校国際協力学科卒業(期間3年)
- 2002年3月:英国エジンバラ大学大学院地理学地理情報システム(GIS)研修修了(期間6ヶ月)
- 2003年2月:英国エジンバラ大学地球・環境・地理学大学院地理情報科学(GIS)修士課程修了(1年間)(学位取得2004年7月9日)
職歴
- 1977年4月:陸上自衛隊に一般陸曹候補生として同学校に入隊。1978年3月依願除隊。
- 1978年4月:九州産業有限会社に入社し砕石プラント・掘削管理者として勤務。1983年10月依願退社。
- 1983年12月:青年海外協力隊に参加しエチオピアの水資源開発公社の建設機械整備隊員として派遣された。1986年4月任期終了し帰国。
- 1986年7月:日本国際ボランティア・センターにボランティアとして参加しエチオピアの総合的村落開発プロジェクト(植林事業と食料配給)の調整員として活動した。1987年6月依願退会。
- 1991年12月:青年海外協力協会に入社し、エチオピアのJOCV契約調整員として派遣された。1994年任期終了し帰国退社。
- 1994年7月:九州産業有限会社に入社し技術協力部の役員として勤務。
- 1994年11月:JICA個別派遣専門家としてエチオピアの総合的農業開発プログラムに現職派遣。1997年11月任期終了し復職。
- 1998年2月:JICA事業の業務調整員としてエチオピアの地下水開発・水供給訓練計画に現職派遣。 2001年2月任期終了し復職。
- 2003年7月:JICA事業にチーフアドバイザー/情報管理としてエチオピアのベレテ・ゲラ参加型森林管理計画に現職派遣。2006年6月任期終了帰国。
- 2006年7月:九州産業有限会社の技術協力部に復職し、現在に至る。
海外勤務経験:
- 1984年4月:エチオピアの青年海外協力隊隊員とし水資源開発公社所有建設機械の日常的な予防整備の重要性認識向上に努めた。(1986年4月まで2年間)
- 1986年7月:エチオピアの日本国際ボランティア・センター(NGO)が実施した緊急医療支援(飢饉)直後の村落復興支援の総合的村落開発プログラム(植林事業と食料配給)の調整員として現場の調整業務を行った。(1987年5月まで11ヶ月間)
- 1991年12月:エチオピアのJICA事務所でJOCV契約調整員として内戦終了直後の暫定政府機関より要請書の取り付け隊員配属及び支援業務を行った。(1994年6月まで3年6ヶ月間)
- 1994年11月:エチオピアのJICAで長期内戦で疲弊し干ばつに弱い地域を緊急支援する総合的農村開発プログラムの個別派遣専門家として協力隊チーム派遣と連携し植林事業の促進活動を行った。(1997年11月まで3年間)
- 1998年2月:エチオピアの JICAでアフリカでも最低の給水率改善の為に技術者育成の地下水開発・水供給訓練計画で業務調整専門家として職業訓練校を新設し、組織化した。(2001年2月まで3年間)
- 2002年3月:エチオピア国アダバ・ドドラ地区にてエジンバラ大学、地球・環境・地理学大学院、地理情報科学(GIS)修士課程のフィールド・リサーチとして、人工衛星データ(Landsat 7ETM)を用いた森林植生の主題図作成のための現地調査を実施した。(2002年4月まで1ヶ月間)
- 2003年7月:エチオピア のJICAでベレテ・ゲラ参加型森林管理計画のチーフアドバイザー/情報管理専門家として希少な天然森林を保全する為の住民参加型森林管理契約協定締結に貢献した。(2006年6月まで3年間)
- 2006年12月:南部スーダンにおける戦後復興と平和構築――草の根技術協力およびNGO活動の可能性調査を大阪大学大学院人間科学研究科・教授と共同で実施した。(2007年1月まで1ヶ月)
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