研究概要
研究テーマ: 「ケニアにおける女性商人の商慣行と市場経済の接合に関する人類学的研究」
ケニアの多くの地域において、マーケットで農産物を売買しているのは主として女性である。女性たちは、マーケットを商業活動だけではなく社会的な交渉を 行う空間として利用する。1980年代に始まった構造調整以降、マーケットでは、行政機関が流通の効率化を標榜して営業規制を始め、さらに国際援助機関が 零細事業者を対象にマイクロファイナンスを導入し、そして近年になると、広域にわたって農産物の生産・輸送・販売を一貫して行う大資本が進出してきた。こ うした変化により、ローカルなマーケットが急速かつ直接にグローバル経済へ連結し始めている。
本研究の目的は、女性商人たちがローカルな文脈と価値観に基づいて行う経済的・社会的実践によって、「市場経済」がマーケットでどのように具現化されて ゆくのかを明らかにすることである。調査地のマーケットが位置するマチャコス県は首都ナイロビに隣接し、この地域には農耕を主な生業とするカンバ (Akamba)人が居住する。県内各地から集まる多くの女性商人は、農産物を首都ナイロビで仕入れてマチャコス市のマーケットで販売し、そこで得た利益 を農地の購入や耕作のために投入している。
1990年代に入ると、マチャコス市当局はマーケットを整備し、新しい業務規定を次々に導入していった。商人たちはその過程で現実にそぐわない規定に対し て抵抗と無視で臨み、さらに市当局との間で交渉・調停・調整を行い規定の内容を変更させた。すなわち商人たちは、顧客・商品・販売場所といった諸条件に裏 打ちされたローカルな正当性を主張し、一般的な流通の効率化を目的とした規定を受け入れはしなかった。本研究では、こうした事例の分析を通して、ローカル な空間では双方向的な力関係が成立しうることを示し、権力の二面性、すなわち権力に及ぼされている者も、一方的に権力を行使されているわけではないことを 明らかにする。
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主な業績:
■論文発表
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