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G-COEプログラムにおける研究課題:和田泰三

  20世紀の100年間で世界人口は約17億人から60億人へと急増したが、先進諸国だけでなくアジアを中心とした発展途上国においても少子高齢化がすすんでおり、この傾向は今後100年間でさらに進行していくものと予測されている。世界人口の絶対数増加とともに進行する人口の高齢化問題は地域の生存基盤への脅威となりうる。この問題に対しては既存の学問領域をこえた文理融合の取り組みが必要であり、以下の点を中心に取り組みたい。

1. メンタルヘルス、QOLの普遍性と多様性に関する検討
  持続型生存基盤を考えるとき、「人間-環境」のつながりの総体を視野に入れたうえで、よりよき生のあり方を再定義し、その追求を可能にする条件を整えていくことが必要(田辺明生氏:イニシアチブ4;趣旨説明より)であるが、「よりよき生のあり方」についてメンタルヘルスを含めた健康や、Quality of Life(QOL)といった概念で定義しなおすことは有益である。しかし、熱帯地域を中心とした発展途上国居住者のメンタルヘルスやQOLに関する報告は未だきわめて乏しい。
  私はこれまで、WHOの診断基準などにもとづいて高齢者うつ病のスクリーニングをおこない、生活機能やQOLとの関連を検討してきたが、欧米で発展してきた診断基準やスクリーニング法を東南アジアなどの発展途上国で適用する前に、基準の妥当性を慎重に検討することが必要である。またQOLという概念は人類全体に本質的な問題であるが、文化的・宗教的背景がQOLに与える影響はあきらかでない。
  よりよき生のあり方の追求を可能にするために研究者間で共有しやすい定量化可能な指標は必要である。今後この点に関してメンタルヘルスの指標のvalidationを、近代医療の乏しい東南アジア各国でさまざまな研究者と共同しながら行いたい。また、東南アジアの仏教圏、イスラム圏を中心に祈りを中心とした宗教的ケアがQOLにいかに影響しているか検討し、生きる意味(QOL)と同時に、個々人の尊厳ある死(Quality of Death :QOD)についても、医療の立場から実践的に考究し、パラダイム形成に貢献したい。

2. 発展途上国における人口高齢化と高齢者の生活機能
  世界銀行は生産年齢人口(working-age population)を15才から64才の人口と定義している。しかし、65才以上のものが自立して生活し、労働者として経済活動に貢献していけるか、寝たきりとなって要介護状態となって生活することになるかは、高齢者自身のQOLを左右するのみならず、地域の生存基盤をも左右するといえる。高齢者の健康問題は医療費増大といった側面を持つ一方で、寝たきり状態を予防して生活機能を最期まで維持することができるならば、生産力維持や向上といったかたちで地域の経済活動におおいに貢献しうる。また、高齢者は「地域の知的潜在力」の原動力となりうることは明白であり、健常な高齢者の就労をさまざまな形で促すことは重要である。しかし、高齢者が労働力や知的潜在力となりえるかどうかについては高齢者自身の生活機能をどれだけ維持できるかにゆだねられており、この点については明らかでない点が多い。
  高齢者の多くが就労可能となれば、実質的な生産年齢人口は急激な減少をきたさずに生存基盤の持続型発展が可能かもしれない。今後、途上国居住高齢者を対象にトイレ動作や入浴動作といった基本的な生活機能評価のみならず、知的能動性や社会的役割といった生活機能全般を含めた総合的機能評価を実施し、就労可能性を検討すると同時に機能劣化のリスクファクターを明らかにしたい。

  以上について、持続型生存基盤を考える上で、フィールド医学のこれまでの実績をもとにより広く学際的な地域研究をすすめ、「生存基盤の意義(QOL)」についても文理融合的に考究し、持続型生存基盤パラダイム形成に貢献したい。


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