「熱帯におけるバイオマス資源:生存基盤持続型技術開発への視点」
日 時: 10月15日(月)午後4:00-6:00
場 所: 京都大学東南アジア研究所東棟2階会議室
【趣旨】
石油にかわる新しい資源としてのバイオマスエネルギーに焦点をあて、その技術的な可能性、技術と社会制度との接点の持ち方、石油とは異なる資源利用の新しい形態等について話題提供いただく予定です。新エネルギーへのシフトが地域社会にどのようなインパクトを持つのか、その時にどのような新しいパラダイムが必要とされるのか等についても議論できればと考えています。みなさまの積極的なご参加をお待ちしております。
■プログラム | |||
4:00 | ~ | 4:30 | 「熱帯におけるバイオマスエネルギー利用の展望」 渡辺隆司(生存圏研究所) |
4:30 | ~ | 5:00 | 「バイオマスエネルギー技術と社会制度の接点 ―データベース構築からのアプローチ―」 大村善治(生存圏研究所)・佐藤孝宏(G-COE研究員) |
5:00 | ~ | 5:10 | 休 憩 |
5:10 | ~ | 5:25 | ディスカッサントのコメント |
5:25 | ~ | 6:00 | 総合討論 |
【活動の記録】
バイオマスとは、「再生可能な生物由来の有機性資源で、石油、石炭、天然ガスなど化石資源を除いたもの」と定義される。これをエネルギーの観点から 見ると、デンプン系、リグノセルロース系、オイル系に分けられる。渡辺さんは、リグノセルロースはエネルギー効率が高く、燃料生産の鍵をにぎるという持論 を展開された。
バイオマスをベースにしたバイオリファイナリーという考え方が紹介された。次世代科学産業の主役となり、エネルギー燃料だけではなく、多面的な材料(化学 品)を生産するシステムを再構築するものである。工業地帯のみが発展してきた20世紀型の石油リファイナリーに対して、21世紀型のバイオリファイナリー は、地域に投資されることで地方経済が振興し、産業構造に変化がもたらされる。
スマトラ島やボルネオ島のプランンテーションでは、モラスやキャッサバを原料としてバイオエタノールが、オイルパームからバイオディーゼルが生産されてい る。その生産性は他国と比較すると低い。オイルパームプランンテーションが発展すると、森林破壊、生物多様性の減少、廃液による河川の汚染など様々なマイ ナス面があり、バイオマスを利用していく上で、様々な問題点が生じることも指摘された。
大村さんは、持続型社会を築く上で問題となる事項について、基礎データを収集する研究を進めている。50年後には発展途上国の人口が倍増し、地球上 の総人口は100億人となる。必要とされるエネルギーは現在の2.5倍になり、現状維持はありえない。我々が考えていかなくてはならないことは、食糧とバ イオマスエネルギーをバランス良く生産するシステムを地球規模で確立することである。生きる人間にとっての生存基盤として、生存圏がどのような意味と価値 をもつのか、地域研究を通して理解したい。特に地域におけるエネルギーの多様性、資源の多様性や社会学的なデータベースをつくる。具体的な研究内容として は、熱帯地域におけるバイオマスエネルギーに的を絞ってデータ収集を行い、社会制度と対応しつつエネルギーを普及するシナリオを考える。最後に大村さん は、50年100年先を展望し、宇宙に眼を向けた太陽光発電受電所を赤道域(赤道域は最も利用しやすい)に設置する持論を展開した。
佐藤さんは、インドのタミルナドゥ州において、貧困緩和を目的とした州政府によるエネルギー作物(Prosopis juliflora DC.)の導入が、農業生産を後退させた例を紹介した。エネルギー作物を導入する際には、農業生産とのバランスを十分考慮する必要がある。各地域に適した エネルギー生産技術・制度を検討するために、まず、気象データなどから地域の潜在的農業生産力を明らかにすべきではないか、と持論を述べた。
エネルギー史におけるバイオマスについて杉原リーダーが、1.エネルギー資源としてのバイオマスの相対的重要性、2.非産油発展途上国においては、 現在でもバイオマスエネルギーが主流であること、3.インドにおけるバイオマス消費の構造を紹介した。天然林を破壊せず、人工林によるenergy plantationsをつくり、既存の技術を利用するなど、地域の実情に合わせた rural bioenergy生産の重要性を述べた。また、水野さんは、インドネシアで盛んになりつつある、ジャトロファ(Jatropha curcas)を紹介した。各コミュニティの持つ土地に植えれば、ファミリーのレベルでエネルギーを確保できる。これを集めて販売すれば、大企業人工林に 依らないエネルギー生産システムが確立できる。
(文責 海田るみ)
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