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本イニシアティブは、持続的な生存基盤の確立のために地球圏、生命圏と不可分な形での人間圏の再構築を目指す。近代において生産性を優先した科学技術や制度は、主体としての人間が自然を客体化するという構想のもとで成り立ってきた。人間社会は自らを自然から分化したものとし、自然界を対象化してコントロールし、生産性をあげるためにそこから資源を簒奪しようと努めてきた。一方人間圏の内部には、人間の生殖活動が、生産と対置されながらやはり生産性の向上を最優先させるために、狭義の「再生産」として対象化され、内なる自然の領域として囲い込まれてきた。そして、社会の外にあるとされた自然も、囲い込まれた「再生産」領域も、脱政治化されてきた。しかし実際には人間と環境の相互作用も「再生産」の領域も、政治的意志と不可分でないはずがない。より豊かな生を目指して、どのように合意を形成し、より広義の再生産を可能にしていくのか。

  今、生殖技術や遺伝子組み換え、大規模な水資源操作など、科学技術や社会工学が進み、人間社会は自然を単に簒奪する対象というより、操作可能なものとしつつある。そのように人間圏と地球・生命圏が技術・制度の進化によって新しい関係の局面を迎えている現在、生産型パラダイムを再検討し、オルタナテイブなパラダイムのもとでどのように公共的意思決定をするかをリデザインする必要がある。そこでは人間社会の存続の核とされてきた「再生産」、人間あるいは人間社会と自然の関係、そして人間と環境の相互作用の総体も、そうした生産性向上に従属するのではなく、逆に生産の方向性を決定付けるべく再編され、再定位されなくてはならない。

  生の営みは、社会および生態的環境との相互作用によって成り立っている。再生産とは、むしろそうした環境との相互作用によって作り出していく生のつながりを次世代へと伝えていくための、生殖に限定されない、生命圏をも含んだ広がりのある連鎖的生の営みとして理解すべきである。

  本イニシアティブは「いのち、存在のつながり、再生産」「グローカルな社会運動」「資源の管理と分配、病や老い、生政治」「都市、リスク、技術、産業」「身体と心と魂」と5つのテーマを掲げた班で活動を行ってきた。その中で上述の問題意識から、親密圏と公共圏の関係性を再考しながら人間圏の再構築を捉え直すことが重要なテーマとなった。

  人間圏において生を育むコアの領域を形成するのが親密圏である。親密圏を特徴づけるのは、愛と尊厳といった具体的な人格的関係の中で生まれる価値であり、それを保障する場である。そのような価値を育む親密圏が、より開かれた公共の場へ価値の実現を展開していく出発点となる。公共圏は、承認と合意形成によって親密圏の論理を実現するべく生命圏と人間圏に制度と技術をもって働きかけ、統治と生産を進める。ここでは国家という特定の統治主体を想定するのではなく、多元的な主体の利害や価値が反映されるよりよい統治の多層的なガバナンス・システムを構想する。また経済システムは、生産性のパラダイムから脱却して、人間圏と生命圏の生のつながりとしての再生産と、それをふまえた個々の生をいかす方向で再構築されなくてはならない。

  親密圏が育むつながりのかたちに個性があるように、それを育む人間圏・生命圏と地球圏を包含する環境にもローカリティの個性がある。これまでの生産中心パラダイムは温帯的環境を前提としてきた。しかし熱帯においては、自然の動きに適応しながらリスクを最小化しつつ恵みを最大限に享受するための、それぞれの地域生態の個性を生かした技術・制度・価値が発展してきた。つまり、各ローカリティの自然の固有性(主体性)を生かした形で、それをよりよく人間社会とリンクするための工夫がされ、共生的関係が醸成されてきたのである。こうした生命圏から親密圏そして親密圏から公共圏にいたる生のつながりの論理の重視は、脱人格化した公共圏による自然の統御を想定した温帯中心のパラダイムに別の可能性を示唆し、親密圏と公共圏また人間圏と地球生命圏の関係の再編に寄与する可能性を持つ。


  今後二年間、本イニシアティブは、このように生命圏と人間圏をつなぐローカリティの個性を見出しながら、親密圏で形成される価値を実現していくような人間圏の再編を模索する。貧困や災害、さまざまな障害にあって人の生をどのように育み、生の再生産を可能にするかは、親密圏から出発した関係性をどのように守り、どのような技術や制度で支え、どのような政治的営みにこれを開いていくかにかかわっている。地球生命圏・人間圏を通じて生存基盤を確保し、その相互作用のなかで持続的な生産を確保していくことはすなわち、生のつながりの再生産につながる。生をはぐくむ親密圏から出発して豊かな生を守っていくための公共性の枠組みを追求する。ローカルに積み重ねられるそのような公共圏を通じて、親密圏が育む価値を実現するグローバルな人間圏が形成される。 

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