第2パラダイム研究会は、生存基盤指数の構築に関するプロジェクト横断的な研究会である。これまで、本グローバルCOEプログラムにおける研究活動は、プログラムメンバーが共同研究を行うために設置された4つの研究イニシアティブと、「パラダイム形成」という目標を担いつつ、イニシアティブ相互の関連や全体の流れを議論するパラダイム研究会という、5つの研究組織を中心として進められてきた。「持続型生存基盤パラダイム」を具体的に指し示す方途として開発を進めている生存基盤指数に関する研究は、当初、イニシアティブ1「環境・技術・制度の長期ダイナミクス」の研究サブグループにおいて進められてきたが、プロジェクト最終成果における大きな柱の1つとなる本研究については全プロジェクトメンバーを巻き込んだ議論が必要であるとの観点から、平成22年度より新しい形で研究会を再編し、毎月第4月曜日の定例研究会と、電子掲示板を活用したWebベースでの議論、という2つの軸を中心に、活動が進められている。
国連開発計画(UNDP)は、経済成長至上主義に対する理念的カウンターバランスとして、アマルティア・センのケイパビリティ理論に立脚した人間開発(Human Development)を提案し、その理念を実践に適用する目的で人間開発指数(Human Development Index: HDI)を1990年の人間開発報告書で初めて発表した。狭義のHDIは、「人々の生活を向上させ、人々が享受できる自由を拡大する方法を模索する」ために不可欠な、① 出生時平均余命で測定される長命で健康な生活、② 成人識字率と初・中・高等教育総就学率で測定される知識、③ 一人当たり国民総生産で測定される人間らしい生活水準、という3つの要素における各国の平均的達成状況を測定する複合指数である。しかしながら、国際規範としての地位を確立しつつある人間開発において、国連の「環境と開発に関する委員会」が1987年に発行した報告書 “Our common future” において提唱された「持続可能な開発」という理念をどのように取り込んでゆくのかは、未だに明らかにされていない。
「将来世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、今日の世代のニーズを満たすような開発」という視点をとりこみつつ、HDIで明示的に示された人間や社会の開発への視点を失わないような発展パラダイムを形成するために、生存基盤指数では、これまでの人間中心的な世界観から、地球圏・生命圏・人間圏という固有の「論理」を持つ3つの圏から世界が構成されているとする分析枠組みを用意した。それぞれの圏の「論理」を尊重しながら、「生存のための価値」と「人間開発のための価値」の双方を追求した、「生存基盤持続型の発展のための価値」を指標化するために、3つの圏と2つの価値によって構成される、6つの考察範囲に関する議論を進め、「持続型生存基盤パラダイム」を具現化した生存基盤指数を構築する。